第26章 帰還
あと3センチ。
あと1センチ。
あと数ミリ。
そのときだ。
「花奏、お前は先ほどから、なにをしておる。花奏の話をしておるのじゃぞ。こちらに来い」
声が飛んだ。
私の直属最高司令部
3代目のお声が。
「っ……う」
げ。
一瞬、苦虫を噛んだみたいな顔をしてしまう。ああ、しまった。逃亡は失敗に終わった。完全にバレていた。残念。無念。失念。
息をはいて
扉をひらいた。
「し、失礼します……。でも部外者の私がいたら、邪魔で悪いでしょうし……また、のちほど……」
そこまで喋り、私は口をつぐんだ。
なんだって。
3代目は
いま、なんと言った?
目の瞬きが
たちまち増える。
「え??わわわたしの話!?」
ーーなんで?!
「えぇ……」
困った。なんでだ。でくの坊みたいに突っ立っていれば、自来也さまが一瞥した。
残念なことに
イラついた視線がむかう。
「呼ばれたら、さっさと来んかい」
「ひぃ…!あ、……はい」
ビクついた肩が
さらに飛び跳ねた。
えーやだ、超恐い。
やだなぁ。私なにかしただろうか。
失敗したかな。
いや振り返ってみれば、失敗の連続だ。人生というものは世知辛い世の中で、失敗の積み重ねが成功の……なんて話はどうでも良い。
私は諦めてなかに入って、扉を閉めた。ぴっちりと。隙間なく。明るい廊下が見えなくなった。私の逃げ道が絶たれた。
重苦しい部屋に、
一歩、二歩、おずおずと足を運んだ。
足取りは重い。
「おまえのぉ、廊下の気配が突然消えれば誰でもわかるぞ。花奏、残念だったのぉ」
自来也さまが顎を押さえて
ニヤリと笑う。暗部らしからぬ行動を笑っておられるのだ。くそぅ。
「すみません…」
病院で気配探って歩く人間なんていないって、ぜったい。
悔しい。気を抜きすぎた。
あえなくアリ地獄に落ちたようだ。
あーめん。
「大丈夫だって」
ふとカカシと目が合った。
優しそうに目が細まる。
「花奏、すぐに終わるから。リハビリ中だろ?心配しなくていいから。ちょっとだけ時間くれ。な?」
「…あ、うん」
カカシの柔らかな声を聞いて
私は目が微笑んだ。
いつもなんだけど、
カカシがいるだけで安心した。
ほっとするのだ。