第26章 帰還
カカシの病室で眠る私は、
ふと目が覚めた。
小さな小さな、うなり声が聞こえたのだ。息苦しく苦悶する声色だった。
「…ぅんん……?」
夢うつつにまぶたを開いた。夜更けはまだ早い。静かな夜で、窓から雲隠れした月が半分顔を出した。
となりをぼんやりと眺めた。まだ目が慣れないし、よく見えない。
カカシは私に身体を寄せて、優しい吐息で眠るのだ。壁についた掛け時計の秒針は規律よく動いている。
……気のせい?
小首を傾げた。寝ようかな……。
私がもう1度、眠いまぶたを落として
5分ぐらいたったときだ。
また聞こえたのだ。
「ぅぅ……花奏……」
息が詰まる声。うなされる声。
「カカシ?」
私は目を開いて顔を覗いた。返事はない。カカシの胸板に手のひらを当ててみた。通常時より心拍数が早いのだ。注意深く耳を傾けると、カカシの口から、微かな苦しむ声が聞こえた。
「……ゔぅ……ん」
目が暗闇に慣れてくる。そばで眠るカカシの眉間に深いシワが刻んだ。大粒の脂汗が額に浮き出ている。
「ねぇねぇ、カカシ大丈夫…??」
ゆさゆさと
苦痛にゆがむ肩を揺らした。
「カカシ、ねえ痛むの?」
心が騒めいた。
背中の痛みが増したの?
そうなら、早く医師を呼ばなきゃ。
焦燥に駆られた私は
「カカシ、いま呼んでくるから」
と声をかけたときだ。
「ーーッ!!」
途端にカカシが
上体を勢いよく起こしたのだ。
「ーーーっ…くそっ……。はぁ…はぁ…はぁ……」
前屈みで息切れしながら
肩を激しく上下させる。
カカシの目がすわる。自分の銀髪をすくい、きつく目を閉じた。
そのまま深く息を吐き出した。
「ーーんだよ…」
私も身体を起こした。隣でこうべを垂らすカカシの背中に優しく手を添えた。
「カカシ大丈夫?お医者さん呼ぼうか?傷が痛むの?」
下をむく。返事はなくて、カカシは口を手で押さえた。触れる背中は小刻みに震えていた。