第26章 帰還
私の痛がる素振りに慌てたのは
テンゾウで。
「ちょっ!?ちょっと花奏さん!無理しないでくださいよ!急に起き上がると傷口が痛みますよ??医療班もくれぐれもゆっくり起き上がってと言ってましたよ」
なんだと。そ、それは先に……!
私は自分の腹をおさえて
苦笑いを浮かべた。
「あはは……だね。気をつけてるよ」
お腹に触ると包帯が何重にも重ねて巻かれていた。腕や頬にも大きなカットバンを貼る。腕や足を動かすだけで、筋肉痛が身体中に響いた。
身体の負担は、やっぱり
大きかったようだ。
「カカシは?だいじょうぶだよね。生きてるよね?」
自分の心音が不安な音色に変わる。
語尾が震えた。
カカシがあの後どうなったか
私は知らない。
生きてる?
なんて酷い言い方だけど
カカシは瀕死の状態だった。
テンゾウはもう一度
パイプ椅子に腰かけた。
「カカシ先輩は身体の負担が大きかったのか、花奏先輩と同じで、2日間、意識が戻りませんでした」
「そう…だったんだ」
でも生きてる。
私はホッとした。
けれども
徐々に心は沈んだ。
後遺症が残らなければ
良いけど…。
「心配しなくても大丈夫ですよ」
テンゾウがなぜか
クスクス笑い出した。
「先ほどまで、花奏先輩の手を握って、今ボクが座ってる席で、ずっとそばにいたのですから」
「えっ……カカシが?」
「はい。自来也さまや3代目に『カカシの方が重傷だから帰れ』ってさっき叱られてましたよ」
「ええっ…」
「ボクがいますからって散々説得して、ようやく自室に戻って行きました」
とテンゾウは微笑した。
「意識が戻らない花奏さんが、心配で心配で仕方ないんだって言ってましたよ」
「そっ…か…」
一瞬。言葉が詰まった。
カカシの方が、ずっと頑張ってるに。いっぱい疲れているのに。たくさん無理をしたのに。
「カカシはもうダメだね。自分がまず治さなきゃいけないのに。ほんと……心配性だね」
目が覚めてからカカシが
ずっと私のそばにいてくれたのか。
そうか。
私の手を握ってくれていたのは
カカシだったんだ。
「そっか。……カカシ……」
ごめんね。ありがとう。
視線を下に落とした私の視界は
しだいに揺らいだ。