第25章 戦闘の終焉
「クク……あり得ないですね」
鬼鮫の乾いた笑いがこぼれる。イタチは「そうか」と相槌をうった。愛おしい花奏の指を握って。
これほど可愛いらしい女性は他にいない。なぜわからないのか。
イタチの心の訴えは
心中でとどめた。
鬼鮫に気持ちを理解してもらおうとは思わない。己の行手さえ邪魔しなければいい。
イタチはチャクラの光を消して、眠る花奏を切なげに見つめた。
……あなたが命を落とせば、オレは……一生後悔の念に駆られた。オレが里を抜けたせいで花奏さんが危ない目に……。本当にすまない……。
イタチはそっと身体を抱えた。
体温は徐々に戻りつつあった。
「あと少しの辛抱だ。花奏さん」
花奏の腹に丁寧に包帯を巻きなおした。腹の血は止まり傷は塞がる。このまま安静にすれば、また忍として生きてゆける。
イタチの目は
安堵で優しく細まっていた。
「イタチさん」
鬼鮫は思わず声をかけた。
目の前にいる男が
あまりに斜め上の言葉を喋り
奇怪な行動をとった。
ーーあと少しの辛抱?
鬼鮫が驚く姿をあらわにしても
イタチは気にしない。
意識のない女の身体を、そっと壊れ物を扱うように、振動が花奏にいかぬように、後ろを確認しながら、優しく女を背負った。
鬼鮫は目を疑う。
「これはこれは……驚きましたね」
鬼鮫の目の下のアザが
ぴくりと動く。
自分の口元に
いつの間にか笑みさえ
こみ上げた。
「イタチさん、その女をどうするのです。まさか暁に連れて行くとは言いませんね」
イタチは問われて
鬼鮫を一瞥した。
表情は戸惑いを
微塵も感じさせない。
なんら迷わずに言葉を発した。
「本当は連れて行きたいが……それはオレにとっても、不本意だ。花奏さんの意識はないのだからな。木ノ葉の病院に、このまま向かう」
"連れて行きたい"
鬼鮫は次に
自分の耳を疑う。
ーー幻聴でしょうか。
力もない。役に立ちそうにも見えない。こんな女を暁に連れて行きたい…?