第25章 戦闘の終焉
「イタチさん……私が今あなたを後ろから本気で狙おうと思えば、簡単に出来ますよ?」
大きな刀を肩に乗せた大柄な男が言う。長身で鮫を思い起こすような男が、森の影から姿をみせた。
薄青い肌に藍色の髪が特徴な男の額には、霧隠れの里を抜けた証が一文字に深く刻まれる。
トントンと大刀.鮫肌を鳴らし、いつでも振り下ろせる射程距離に足を運んだ。
柔らかな月光の下に立つ男は
ニヤリと尖る歯を見せた。
「……鬼鮫、なぜ来た。来るなと伝えただろう」
制すが、イタチは背後に近づく男に目もくれない。花奏の治療を続けた。愛おしい目で艶のある茶髪を撫でている。
不可解な光景だった。
鬼鮫は理解できない。
暁の任務が終わった瞬間、走り出したイタチの背を追いかけた。
どんな企みかと追跡したが、まさか女の治療の為に全速力で走っていたとは、鬼鮫はつゆにも思わない。
「なぜ、わざわざこの女を助けるのです?わかりませんねぇ、私には。まあ、可愛いらしい女だとは思いますが」
鬼鮫は大きな刀を肩に担いだまま、深傷を負った女を覗いた。身体中に傷を負う。腹が一番深い。背まで貫通していた。
イタチが助けなければ、
あと数分で絶命するような女の忍を。
「なぜ」助けるのか。
この2文字が鬼鮫の頭に
こびりつく。
暁に入隊したばかりのイタチは鬼鮫と
すぐにツーマンセルを組んだ。
冷酷非道。
残忍だと恐れられる鬼鮫さえ、心ならずも感じるほど、イタチは与えられた任務に対して、忠実に確実に遂行した。
冷淡で、普段ニコリともしない男が、絶命間近の忍を遠くで見つけると、一目散に駆け寄った。
横たわる血塗れの女の身体を大事に抱え、周りを警戒せずに、己のチャクラを惜しげなく注ぎ込む。
あまりに隙をみせる無防備な姿に
鬼鮫は絶句するほどだ。
「いつか…お前にも分かるようになる」
イタチは呟く。朗らかな表情で、花奏という名の女の頬を、優しく愛しそうに撫でた。
ーーいつか私に?
鬼鮫は思わず小さく鼻で嗤った。