第24章 戦場
「ははは……、獣面をつけても分かるな。悔しそうだぜ??さあーーーどうするんだ。崖に落ちたほうが楽に死ねる気もするがな」
仲間の声に合わせて、破れんばかりの嘲笑が舞った。敵の視線は崖下。
輪になって囲む残党の群集は、剣や斧の切先をテンゾウの上体に向けた。見下して嗤うが、敵に一寸の隙はない。
残党といえども霧隠れの忍。この戦いが終われば、もしや里に戻る気やもしれない。
テンゾウは究極の二択を迫られる。
ボタンをかばい
大量の敵を相手するか。
はたまた
諦めて
断崖絶壁から飛び降りるか。
ーーどちらかだ。
地にふせたボタンは、ぴくりとも動かない。時間はなかった。
気を失っているだけなら
いいけれどね…。
テンゾウはボタンを見つめて覚悟を決める。猫面の下で口を開いた。
「わかった……ボクは諦めるよ」
「は?なんだと?」
残党の問いかけには答えず、テンゾウは屈んだ。ボタンの頭を動かさぬよう、そっと腰と膝裏に手を入れる。
彼女の顔を見た。目は閉じられ、ぐったりして眼球すら動かない。面は割れて散らばった。がくんと頭が下がり長い髪が地に垂れた。
ボタン……。
「…おいおいおい待てよ待てよ!コイツ諦めるってよ!!」
「マジかよ暗部だろ、お前!!」
ゲラゲラと湧く群衆を背に、テンゾウはボタンを横抱きした。
……助けたい…彼女を。
守りたいと強く願った気持ちに
指先が自然と強まる。
覚悟を決めたテンゾウは
迷わなかった。
足先から断崖絶壁の崖下に
そのまま飛んだ。