第24章 戦場
テンゾウは文字通り
断崖絶壁の窮地に追いやられた。
腹の底から愚弄した笑み声が
目前に大勢群がる。
猫面下で焦りが滲んだ。
背後に壮絶な断崖が迫る。小石や砂がパラパラと谷底に落ち、底なし沼の暗闇に吸い込まれゆく。何メートルあるだろうか。深さ300メートルはあった。
足先にボタンが横たわる。攻防時に頭部を強打したのだ。
呼吸や脈拍は正常。出血も少量だ。ただ意識が戻らない。軽い脳震盪だろう。テンゾウは推測した。
救助を求めたいが、
肝心の仲間が他所で戦闘中だ。
たまらずに
口腔で舌打ちを鳴らした。
……厄介な事態に巻き込まれた。
テンゾウは敵を厳しい目で見つめたまま、
大きく声を荒げた。
「おい、ボタン、おい!ボタン!!」
かすれ声1つ戻らない。タイミングが悪い。軽症だと判断したが、ボタンは指1本動かさないのだ。
まさか…重症なのか…?
しだいにテンゾウの不安は、
否が応でも膨らんだ。
専門知識を持つ医療班が
今いないのだ。
応急処置すら今出来ない状況。大ピンチ以外なにものでもない。
ボタン……!!
目を覚ましてくれよ!!
テンゾウの顔に
緊迫した焦燥感が高まる。
「ーーで、どうするんだ??お前の首を差し出せば、そこの女は助けてやるぜ??……な?」
残党の中心に陣取る男がワザとらしく振り返り、周りへ同調を求めた。
「ひでぇーヤツだな。悪党丸出しじゃねーか」
「違いねーがな!ギャハハ!!」
肩を揺らす周囲の残党の群れ。あざ笑う多勢の声が断崖絶壁で木霊した。
「おいおい、まだヤッてなかったのかよ、さっさと始末しろよ」
鬼の首を取ったように、
高々と残党が次から次に集まる。
50……いや、それ以上か。
テンゾウは野鳥観察のように
人数を数えた。
残党が口にした「助ける」は嘘だ。
誰が見てもわかる。
気を失う彼女を犯すつもりか。
用が済めば……。
「…っ」
たちまち頭に血がのぼる。
猫面から眼前を鋭く睨んだ。
……全員まとめて地獄に堕ちろ。
珍しく激昂した。戦時でも冷静さを忘れないテンゾウが、我を忘れるほどだ。
この場で暴れたい衝動に駆られたが、分が悪い。ボタンが意識不明なのだ。