第23章 戦闘と平和の狭間
瞬身の術をつかい、アカデミー火影室に私は歩を進めた。
…あれ、いない。
ふだん扉の両端に立つはずの
護衛暗部の姿が見当たらないのだ。
ドアノブを
つかもうと手を出したときだ。
大きな声が
ドアの向こうから響いた。
「暗部が全滅してもいいのか、猿飛先生!!」
突然ふる
馴染みある師匠の咆哮に、
自分の身が怯んだ。
「誰もそんなこと思っとらん!バカモノが!」
猿飛さまの怒鳴る声も飛ぶ。険悪なムードが火影室に漂う。ひんやりと空気が凍る。
「木ノ葉も堕ちたのぉ……。同胞殺しのイタチと、暗部が今から雪ノ里を潰す行為。いったい、なにがちがう。いっしょじゃろうて!」
拳を机に叩きつける音と共に、自来也さまは声を荒げた。珍しく苛立つ声色だった。
「綺麗ごとを言うでない、自来也。木ノ葉を守るためじゃ。感情は捨てろ。犠牲は常に付きものじゃ」
猿飛様は、はっきり口にする。
犠牲という文字を。
「さっきも言ったハズだが、雪ノ里がどれほど実力があるのか、わかっておるのか。ワシも何回か外で交えたことがあるが、…まあ厄介な奴らだのぉ」
自来也さまは続ける。
「天才だと幼少期から言われたカカシとて、…死ぬぞ。アイツは多分帰って来れんぞ」
"帰って来れん"
"死ぬぞ"
そこまで聞いて
私の頬に涙が伝う。
大粒の滴が
ぽろぽろと流れた。
「っ……」
「……バカモンが」
猿飛さまは深い息を出す。
溜め息が聞こえたあと、
落ち着いた声が私に届いた。
「……花奏…そんなところで聞いておらんで中へ入って来い」
「っ!は、はい」
猿飛さまの言葉に、私は目元をぬぐい、ドアノブをひねる。重苦しい扉をゆっくりと押した。
火影室に入ると
猿飛さまと自来也さまが、
長机を跨いだソファに腰掛けていた。
「自来也、花奏の気配……わかって喋りおったな」
ジロリと3代目猿飛ヒルゼンさまは、厳しい目を向ける。シミが増えた眉間のシワが深まる。
「知らぬのぉ。たまたまじゃろぉて」
自来也さまは、顎を右手で触る。
白髪の長い髪はソファまで届いた。