第12章 闇 終焉の地
「ここでいい……か……」
大きな大木に、もたれるように腰掛けたヤナギは、私を見て笑みを浮かべた。
「ちょっとこっち来て?」
「……いや……、なにする気?」
私は恐かった。先ほどまで殺気を飛ばしていた敵だ。なにをされるか分からないのだから。
「なんもしない。お願いだよ、頼むから、そばに寄ってよ」
そう言って笑う。
その表情がいつものヤナギだった。屈託のない優しい笑顔。どこか困ったような表情。
だからつい、
私は近寄ってしまう。
そのとき、ふと気づく。
「……ヤナギ、首の怪我……」
青紫色に変色している。ただのかすり傷だったはずだ。
「まさか……あのクナイ……」
そう言って駆け寄ろうとした次の瞬間。
ヤナギに腕を掴まれ、身体を引き寄せられる。私はすっぽりと覆うように抱きしめられていた。
「花奏ちゃん、ごめんな」
ヤナギは、静かに私に言った。
「首……ねえ……、そ、それ……毒じゃないの……?」
吐く息がおかしい……。顔を間近で見れば分かる。ヤナギの額は汗が滲み、苦痛で歪めた表情だ。
「……花奏ちゃんを裏切った罰が当たったんだよ、俺は……。いや、違う。わざとそう仕向けた……。俺は……花奏ちゃんが泣いた姿を見て……無理だと思ったんだ……。最後は演技だよ……」
苦笑いのヤナギは、顔を見られたくないのか、私を抱きしめた。
「……ごめんな、本当にごめんな…もともと……殺すつもりはなかったよ………でも、傷つけてごめんな……」
私を抱きしめる腕は、
脱け出せないほど強い力だ。
「……ヤナギ……ねえ、病院に……」
「……いや、もういいよ……。 ここで死にてえ……もう全部終わりにしたい……」
彼の身体は寒さに震えるように冷たい。
優しい声が耳から聞こえてきた。
「……恐かったよな、……ごめんな。 もう終わりだから。 家、燃やしてごめんな。あと、媚薬盛ってごめんな。あとは、……嘘……ついて……ごめん……な」
「……うん……」
ぎゅっと背中に手を回し、私は少し間をあけて言った。もう焼けた家は戻ってこない。すべて過ぎたことだ。