第26章 Only You*カルナイ[うたプリ]
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嶺二side
『天才』
そう呼ばれる子がぼくの次の曲を作ることになった。
まだ早乙女学園の学生である彼女を一目見ようと、学園を回る。
そこでピアノと向かい合う少女と出会った。
後ろ姿でも凄く綺麗な子とわかるほどで、アイドル志望かな?とそんなことを考えながら近づく。
と気配に気がついた彼女はばっとピアノに突っ伏した。
「見ないで…」
泣いているようだった。
「なにかあったの?ぼくに相談してごらんなさいっ☆…話した方が楽になることもあるよ?」
後ろから明るく声をかける。
声をかけたのは気まぐれだった。
困っている後輩の力になりたかっただけだった。
後輩ちゃんは少し考えてから、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「私、今度とある先輩の曲を書くことになったの。」
この一言で全てを察した。
この子がぼくの曲を書く子だと。
ポツリポツリと言葉が紡がれる。
まだ未熟なのにデビューすることになった不安。
知らない人の曲を書く心配。
そして、自分の音楽が否定されたときの恐怖。
天才と呼ばれる少女は小さく震えていた。
「辛いなら止めちゃえば?」
ビクッと彼女の肩が揺れる。
厳しい口調だったから仕方がない。
ごめんね、でもキミのためなんだ。
強い意志がないとこの世界ではやっていけない。
「…それは無理。」
ゆっくりと彼女が顔を上げる。
「どんなに辛くても、どんなに怖くても……それ以上に好きだから、音楽が…!」
彼女はピアノに向かって微笑んだ。
自分に自信をつけるため…そんな笑顔だった。
ああ…強い子だ。
この子は大丈夫。
直感がそう告げる。
「キミの音楽をぼくは拒んだりしないから、安心して。ね?」
「ふふっ…聞いてもらってありがと…っ?!」
振り返った彼女と目が合う。
「え…!寿、嶺二さん?!」
驚きを隠そうとはしない彼女を見て、思わず笑ってしまった。
驚くのも無理はない。
本人登場とは思いもしなかっただろうし。
「初めまして、南奏ちゃん。」
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あれ以来、奏ちゃんはなにかと頼ってくれる。
「嶺ちゃんってお兄さんみたい」って言われるほどに。
それはそれで嬉しいんだけど…
男として、見てほしいな。
なんて。