第26章 Only You*カルナイ[うたプリ]
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「やっぱり、ミューちゃんは女王様に向けて書くの?」
作曲の方は一段落し、奏の興味は作詞の方へ向く。
「…この身体は女王のものだが、心は別にある。」
「え、誰?!」
俺が買ってきてやったチーズケーキを頬張りながら、食い気味で聞いてくる。
こいつは本当に鈍い。
俺はもちろん他の奴らにも好かれていることはつゆ知らず、俺たちを惑わす。
「…私の心はお嬢様のものです。」
仕事ではないが執事モードになって、奏の手にキスを落とす。
ほんのりと染まった頬で「冗談」と奏が呟く。
「冗談ではありませんよ、私は貴女を愛しております。」
にっと意地悪く微笑むと、奏は目をそらせた。
「執事のミューちゃんより、いつものミューちゃんの方が私は好き。みんなの前では見せない、ありのままの貴方の方が素敵だと思うよ。」
こいつには、自分の発言に責任はあるのか。
一つ一つの言葉に惑わされ、捕らえられ、堕ちていく。
「キャッ…っ!」
俺はいつの間にか奏をソファーに押し倒していた。
「ミュ、ミューちゃん!!」
ここまで赤くなったこいつは初めて見る。
「お前は好きな奴がいるのか?」
瞳を捕らえる。
逃がさない。
「……わからない。」
長い間の後、そう返事が返ってきた。
俺は短く息を吐くと奏を座らせた。
「お前が気づいているかは知らないが。」といつの間にかそんな言葉を口にする。
この後に続く言葉を言っていいのだろうかと躊躇ったのも一瞬だった。
「お前は多くの奴らに愛されている。俺もその一人だ。」
「…っ!」
悲しそうな、申しわけなさそうな顔になったのを俺は見逃さなかった。
きっとお前のことだからこう考えているのだろう?
自分が誰かの気持ちを受け入れることで他の誰かを傷つけてしまうかもしれない。
お前は賢く優しいからな。
「傷つけることを恐れるな。お前がこのまま選ばない方がよっぽど問題だ。」
「うん…」
「…それに本当にお前を好きならばお前の幸せを第一に考える。…もちろん俺もな。」
「…そんなこと言われたら好きになっちゃいそう。」
奏は自分の気持ちを隠すように、冗談めかして微笑んだ。
「それは光栄だ。」
俺もニヤリと笑った。