第26章 Only You*カルナイ[うたプリ]
ーーーーーーーー
蘭丸side
一年くらい前。
最初あいつが作曲すると言われたときには猛反対した。
誰だかもよくしらねぇ、しかも女が作る歌なんて歌えるかよって。
それでも強く押し切られ、会うことだけはしぶしぶ認めた。
「私は貴方の歌を創りたいんです!!」
奏が開口一番に言ったことはそれだった。
(自己紹介も無しでこいつ大丈夫かよ?!)
すっかり驚き、常識が無いのか…?って本気で思った。
だがあいつも本気だった。
本気だからオレに自分の意志だけを真っ直ぐ伝えたんだろう。
その証拠にキリッとした目でこちらを見ていた。
瞳の奥に…いやそれよりももっとずっと奥に奏の熱いもの、Rockを感じた。
「オレを満足させられるなら、歌ってやるよ。」
いつの間にかそんな言葉が出ていた。
「!あ、ありがとうございます!!」
緊張が解けたような奏のふにゃっとした笑顔は今も覚えている。
ーーーーーーーーー
仕事帰りに奏との打ち合わせに行く。
(…っち。だりぃな。)
もちろん奏との打ち合わせのことではない。あいつのことは認めている。
近頃仕事が立て続いていて、まともに休んでいないからだ。
チャイムを鳴らすと、すぐに奏が顔を出した。
「…蘭ちゃん、大丈夫?」
開口一番に言う奏。
こいつは何でもわかってんのかよってつくづく思うぜ。
「別に大丈夫だぜ。」
ソファにドカッと座る。
「そんなことないでしょ。」という声がコーヒーの香りとやってきて、隣に座る。
こいつ特有の柔らかな匂いが鼻をくすぐる。
「…仕事が続いてるだけだ。」
隠し事は出来ないと思い正直に言うと、奏は「やっぱり」と笑った。
「ちょっとだけ寝ちゃいなよ。肩、貸してあげるから!」
「何言ってんだ、打ち合わせし…っ!」
腕を引っ張られ、こいつの思惑通りオレの頭は奏の肩に乗る。
「蘭ちゃんはきっと無理して来るだろうからって、眠気覚ましのコーヒー入れたけど…」
息遣いが聞こえる。
「想像以上だったからさ。打ち合わせは後でも出来るから。」と言って重ねられた手からは優しい温もり。
こいつには勝てない。
「しょうがねぇな…」と呟いて目を閉じる。
「お疲れ様」と声が聞こえた。