千銃士【Noble Master Project】R18
第8章 英雄の狂乱
「………」
「………」
「……ラップさん…?」
「……はい」
「あの…こちらを見て貰えますか…」
「………」
ラップの赤い瞳が、戸惑いを見せながら沙優に向けられる。
いつも冷静沈着で大人びているのに…その揺れる瞳は少しだけ幼さを滲ませていた。
「ラップさんは、このNoble Kissのことを、どう思っていますか…?」
「私が、ですか?」
意表をつかれたように目を見開くと、ふむ…と考え込み、しばしの沈黙のうちラップは口を開いた。
「正直申し上げて、このような行為に加担するのは…マスターの人権を踏みにじるようで心苦しく思います。しかし…」
「…ん?」
「マスターがそれで…癒され……命をつなぐことが出来るというのなら、意味のある行為であることは理解できます」
「ラップ、さん…」
信念の宿った赤い瞳が沙優を射抜くように見つめると、ラップは彼女の前に跪いた。
「マスター、どうか」
差し出された手は、かすかに震えているようにも見える。
「……あなたのお役に立つことを…お許し願えませんか」
ほんの少し、沈黙が流れた。
おそらくラップにとっては、永遠に近いほど長く感じたその静寂は、沙優によって破られた。
ラップの手に、沙優の指先が触れる。
「っ……」
瞬間、息を呑んでラップが顔を上げた。
そこには、少し頬を染めた沙優が小さく微笑んでいた。
「……お願い、したいです」
夜闇に溶け込んだ沙優の黒髪があまりにも美しく、ラップはその場でしばし呆然としてしまったのだった。