第15章 恋の歌①(夢主side)
夏の始まりを告げる少し湿った風を感じながら同じ景色を見ていると不意に声をかけられた。
「ねぇ、葵…」
「なに?」
「歌を歌ってくれない?葵の世界の歌。あの時とは違うのがいいな。」
突然の思いもよらないお願いに驚いた。
「いいけど…このまま?」
「うん。」
(いや…さすがにこのままは恥ずかしいんだけど……そうだ!)
「じゃあ、歌ったら私のお願いも聞いて。」
「ん?いいよ。なに?」
一瞬、驚いた様な感じがしたけど何だかワクワクしているようだ。
「馬に乗ってみたい。輪虎に乗せて貰うんじゃなくて自分で乗りたいの。だから、教えて。」
また驚いているようだった。
「え?別にいいけど、どうして馬に乗りたいなんて思ったの?未来の世界じゃ分かんないけど今の中華では女で馬に乗れる人なんて女武将以外ほとんどいないよ。」
(そういうもの?時代が違うとそんなもんなのかな?)
「そうなの?でも自分で馬に乗って輪虎と同じ景色が見たい。自分で乗って自分の目で見たいんだ。」
正直な気持ちを真っ直ぐに伝えた。
「分かった。じゃあ、歌を聞いたらね。」
(何を歌おうかな……そうだ…)
そして、歌い始めたのは恋の歌。
(よく『こんな風に想える人に出会えたら…』何て思ってたな…)
そんな事を思い出しながらも浮かぶのは輪虎だった。
気付けば歌いながら微笑んでいた。
歌い終わると抱き締める力が強くなった。
「やっぱり綺麗な歌声だね。ねぇ…この歌ってさ…」
「うん…輪虎のことを想いながら歌ってた…」
顔が赤くなるのが分かって少し俯いた。
「そっか……ありがとう。」
そう言うと輪虎の顔が迫ってキスされていた。それは触れるだけの軽いもの…