第6章 自覚②(輪虎side)
葵が動けるようになると殿や介子坊さん達に挨拶をしてようやく帰ることが出来た。
街をゆっくり歩いていると葵は目を輝かせワクワクしているようだ。
「珍しい?」
キョロキョロしている葵に聞くと満面の笑みを向けてくれた。
「うん!見たことないものがたくさんあって楽しいよ!」
(ずっと王宮で働いていたからこういう所にはあまり来たことがないのかな?)
そんな事を考えていると葵の足がある店の軒先で止まった。
そこは髪飾りや耳飾り等が置いてある宝飾店。
(ん?やっぱり女の子だしこういうのが好きなの?)
単純に宝飾に興味があるのかと思ったけど、どうやら違う。
その目は少し寂しそうに葵の花を型取った耳飾りを見ている。
まるで何かを懐かしむような…誰かを思い出しているような……
(葵の花に何か思い入れでもあるのか…?)
そっとそれを手に取るとそのまま葵の耳に付けてあげた。
驚いて僕を見てきたけどそっと耳に触れたまま微笑んだ。
「可愛いよ。」
葵は耳まで真っ赤になりながら戸惑っている。
「あの……」
「これ、貰うね。」
葵が何か言う前にお金をさっさと渡した。
「え…ちょっと……」
「他に何か欲しいものある?」
「これも悪いから…」
(やっぱりそう言うと思った。こんな無欲な子も初めてだ…)