第1章 出会い①(夢主side)
(やっぱり聞かれていたんだ…何とか逃げ切らないと…)
震える声のままゆっくり答えた。
「…いえ…魏国のものでは…私の時代…いえ!私の生まれた国の歌です…」
(しまった!思わず時代って言った……絶対おかしいと思われてる…)
「申し訳ありません!!あの、今は魏国の人間です!決して魏国を裏切ったりなどしてません!ですから…お許し下さい……」
(お願い…死にたくない……)
もう涙が出そうになっていた。きっと斬られる…そう思っているとまた軽やかな声が聞こえた。
「僕は魏国の人間じゃないよ。」
「えっ………」
思わず顔を上げるとその人と目があった。
優しくて、強くて、そしてどこか寂し気な…それが第一印象……
「僕は趙国から亡命してきた殿についてきた趙国人なんだ。だから、例え君が魏国を裏切っていたとしても僕には君を責める資格はないよ。」
そう教えてくれたその人はとても綺麗な笑顔だった。
「君の国の歌って言ってたけどどこ?趙国ではないよね?聴いたことないし。だとしたら秦?楚?」
(言えるワケがない。2000年以上未来の歌だなんて…)
「いえ……もっと遠い国です…中華から離れた…」
それ以上は何も言えなかった。
正直、これ以上何か聞かれたらどう答えようかと俯いて考えていた。
「そっか。なら質問を変えよう。君、名前は?」
予想外の事を聞かれた。
「はっ?」
また思わず顔を上げるとその人は笑顔で続けた。
「な・ま・え。外国人でも名前くらいあるでしょ?」