第6章 自覚②(輪虎side)
「ほぅ。輪虎…」
ドキッとした。何を言われるのかと…
でも、それは悟られないようにいつもの調子で返事した。
「はい?何でしょう?」
「なるほど……うぬが気に入った訳が何となく分かったぞ。」
殿のその言葉にホッとしたのは束の間だった。
「葵、なかなか良い目をしているな。気に入った!どうだ?今からでも遅くない。ワシの元に来るか?」
葵が驚いて僕を見てきたけど、それ以上に僕の方が驚き慌てふためいて助け船を出す余裕なんてなかった。
「なっ!と、殿!それは…!」
「ヌハハハ!!冗談だ!部下の女に手を出す程落ちぶれてはいないわ!
うぬのその焦りよう余程気に入っているようだな。うぬのその姿が見れただけで満足じゃ!
よし!宴じゃ!!輪虎、覚悟は良いな?」
「はは…だと思ってましたよ。」
殿のキツイ冗談に苦笑いするしかなく、僕のその様子に殿は豪快に笑っていた。
そしてまだ明るい昼から酒宴が始まった。
介子坊さんや姜燕さん、それに玄峰様にも紹介するとみんな葵に優しくしてくれていた。
優しくし過ぎてみんな葵にどんどんお酒を勧めて、葵もニコニコしながらどんどん飲んで僕は気が気じゃない。
それなのに殿が肩をガッチリ組んでいて身動きとれなかった……
(あぁ…また飲んでる…あんなに笑って…楽しそうだけど…ちょっと!介子坊さん近いし!姜燕さん何、髪触ってるの!玄峰様さりげなく手を握らない!!)
そんな僕の心の声はみんなに届かなかい…
「輪虎ー!飲んでおるか!?」
「あぁ、はいはい。飲んでますよ。」
また殿が酒を注いできて僕の落ち着かない酒宴は続いた……