第6章 自覚②(輪虎side)
そんなある朝、朝食を食べていると昨日殿に言われた事を思い出した。
「あ、そうだ。今日は殿の所に行くからね。」
「えっ?」
「君の言った通り僕が宮女である君を拐ったことが問題になってね。あはは!でも、殿が揉み消して…あ、いや適切に処理してくれたんだ。だからお礼も兼ねてご挨拶。」
(そうそう、王宮からうるさく言われてたのを殿が根回しして収めてくれたんだよね。細かいことは知らないけど。わはっ!)
「分かった…けど、殿って誰?」
「ん?ああ、廉頗将軍。僕の主君で趙国三大天と言われた大将軍だよ。知ってる?」
「ごめん…知らない……もう少し歴史の勉強しておけば良かった……」
後半は小さな声でよく聞こえなかったけど、中華の人間じゃないなら知らなくても仕方ないか…くらいに思ってた。
「そう?ま、会えば分かるよ。」
葵と共に殿の元を訪れたのはその日の昼過ぎ。
「殿、輪虎です。」
部屋に入ると正面に殿が座っていた。
殿の放つ威圧感、雰囲気に葵は圧倒されて小刻みに震え俯いているのが分かった。
「おお、輪虎。待っていたぞ。それが例の下女か。全く…いくら下女とはいえ王宮の人間を拐うとはな。揉み消すのになかなか苦労したぞ。」
それはいつもの大きなよく通る、それでいてどこか優しさのある声。
そんな声に思わず笑顔になった。
「はは、申し訳ありませんでした。」
「まぁよい。うぬがそんな事をするとは思わなかったから驚いたがのぅ。ヌハハハ!」
チラリと隣を見ると葵は相変わらず俯いて震えていた。
(ま、仕方ないか…初めてならこうなるよね。)
「葵、ご挨拶を。」
「葵と申します。この度はありがとうございました。」
促すとようやく挨拶してくれたけどやっぱり声も震えていた。
そんな葵を殿はじっくり見ている。
「ふむ。葵とやら顔を見せてはくれないか?」
声がかかりゆっくり顔を上げると葵も真っ直ぐに殿の目を見ている。