第5章 自覚①(夢主side)
そんなある朝、朝食を食べていると思い出したように輪虎様が話し出した。
「あ、そうだ。今日は殿の所に行くからね。」
「えっ?」
「君の言った通り僕が宮女である君を拐ったことが問題になってね。あはっ!でも、殿が揉み消して…あ、いや適切に処理してくれたんだ。だからお礼も兼ねてご挨拶。」
(今、確実に揉み消した…って言ったよね?てか、殿って誰だろ?)
「分かった…けど、殿って誰?」
「ん?ああ、廉頗将軍。僕の主君で趙国三大天と言われた大将軍だよ。知ってる?」
(古代中国の将軍なんて知らないよ…今までだってそんな偉い人は雲の上過ぎて話しにも出てこなかったし……)
「ごめん…知らない……もう少し歴史の勉強しておけば良かった……」
後半は小さな声でボソボソ言っていた。
「そう?ま、会えば分かるよ。」
輪虎様と共に廉頗将軍の元を訪れたのはその日の昼過ぎ。
「殿、輪虎です。」
部屋に入ると正面に殿と呼ばれた廉頗将軍が座っていた。
顔中傷だらけで物凄い威圧感…こうして同じ空間にいるだけて息が苦しくなるくらいだった。
(この人が輪虎様の主君…正直怖い……)
体が小刻みに震え俯いていた。
「おお、輪虎。待っていたぞ。それが例の下女か。全く…いくら下女とはいえ王宮の人間を拐うとはな。揉み消すのになかなか苦労したぞ。」
声もよく通る大きな声だったけど、さっきの威圧感とは裏腹にそこには優しさが感じられた。
「はは、申し訳ありませんでした。」
「まぁよい。うぬがそんな事をするとは思わなかったから驚いたがのぅ。ヌハハハ!」
そんな会話を俯いて聞いていたけど頭の中は真っ白だった。
「葵、ご挨拶を。」
そう促されたけど声が震えた。