第4章 早駆け②(輪虎side)
どれくらい眠っていたのか分からなかったが、意識がゆっくり浮上すると歌声が聴こえた。
歌詞は聞き取れない…けどそれは心地よい音楽…
(葵の歌声だね…それに温かい……)
「ん……」
「あ…ごめんなさい。起こした?」
目を開けると少し赤い顔の葵がいた。
不思議に思いながらも軽く欠伸をして起き上がると伸びをしながら告げた。
「いや…そろそろ帰ろう。風が冷たくなってきた。」
すると葵は頭を下げてきた。
「はい…あの!今日はありがとうございました!一瞬でもこんなに綺麗で素敵な所に来れて楽しかったです!」
その態度に少し怒りを覚え思わずキツく言ってしまった。
「葵、誰が君をもう一度あそこに連れて戻るって言った?僕の屋敷に一緒に帰るんだよ。」
「へっ…?」
驚いたのか葵のその声は聞いたことないすっとんきょうな声だった。
「何その声?そんな声も出せるの?ホント君って面白いね。」
「それは…だって…輪虎様が…」
ホントに可笑しくて葵が何か言っていたのも聞かずにずっと笑っていた。
そのまま葵をまた抱きかかえると馬を走らせた。
屋敷に着くと数人の下僕が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。お言い付けの通り女性用のお部屋を用意しております。」
「うん。ありがとう。」
そんな会話をしながら葵を横抱きにかかえた。
(軽いな…女の子ってこんなに軽かったんだ…)
またらしくないことを思って自分に驚いていると遠慮がちに葵が話しかけてきた。
「あの…自分で歩けるよ…?」
「ん~…でも僕がこうしていたいから気にしないで。」
「いや、でも重いし…」
「君、軽いよ。もっと食べないと。」
「それは輪虎様が将軍だからでしょ!」
怒ったように唇を尖らせキツイ口調で言ってきたけど、それは怒りじゃなく照れ隠しだとすぐに分かった。