第4章 早駆け②(輪虎side)
しばらく走って着いた所は王都近くを流れる川の畔。
水はキラキラ反射し、せせらぎが聞こえ、たくさんの魚が泳いでいるのが見える。周りは緑の木々、足元には所々可愛い花が咲いている。
馬から葵を下ろすと珍しそうに辺りを見回しとてもいい笑顔になってくれた。
「綺麗なところ。初めて来た…」
「ん~そうだね。普段、王宮の外には?」
僕も笑顔で葵を見つめたけど一瞬で笑顔が消えていた。
「滅多に出られない…時々里帰りも許されるけど私には帰る所もないし…」
(ああ…そういえば祖国は遠い国だって言ってたな。)
「そっか…でも、これからは僕が連れてきてあげる。馬ならすぐだしね。」
ニッコリ微笑んだけど葵は暗い顔のままだ。
(参ったな…どうしたらもう一度笑ってくれるかな?)
そんなことを考えていると葵が真剣な眼差しで話してきた。
「将軍…あの……」
「輪虎。僕の名前は輪虎だよ。」
(将軍はあくまでも肩書きだ。君には名前を呼んで欲しい……ん?何で?)
そんなこと思ったこともなくて自分のその感情がよく分からなくて戸惑っていると遠慮がちに葵が名前を呼んできた。
「あの…輪虎様……」
(いや、普通に呼んで欲しいんだけど……)
「『様』も止めようか。」
「は?えっ……」
「輪虎でいいよ。君にはそんな風に呼んで欲しくない。」
「いや…さすがにそれは……無理…かな?」
(あれだけ僕にキツく怒ったクセに何でそこは遠慮するんだろ?ホント面白い子…)
思わずクスクス笑っていた。