第35章 一歩②(輪虎side)
オロオロする葵に見かねて後ろから抱き締めた。
「いいの、いいの。気にしないで。ちょっとしたやっかみだから。」
「えっ?あの…?」
そんな様子を見てまた信が叫んだ。
「だから人前でイチャつくな!たく、戦場との差がありすぎるだろ。」
「ふふっ、それは誉め言葉と受け取っておくよ。」
蒙恬は信と僕がやり合う様子を見て微笑んでいる。
「ははっ、相変わらず賑やかだね。輪虎…最初からここにいたら良かったのになぁ…ね、王賁。」
「…興味ない。」
そう言った王賁だがもう殺気はなく少し優しい目になったいた。
それからは本当に毎日忙しかった。
飛信隊の練兵と王宮との往復…
僕の回復訓練も兼ねて信と手合わせしたりもした。
少しずつ勘は取り戻せたけどやっぱり以前のようにはいかなかった。
それでも信や羌瘣以外誰も僕には敵わなかったけどね。
信からはやっぱり戦場に戻らないかと言われたけど断った。
廉頗の剣じゃなくなった僕が戦場にいる意味は見出だせない…
いや、それだけじゃない…思えば山陽の戦いの時、僕は初めて出陣したくなかったんだとやっと気付いた。
殿の為だ、いつものことだと必死に言い聞かせていたがいつの間にか殿より葵の方が大事になっていた。
それでも僕はやれるだけのことはやった。精一杯やって信に負けたんだ。
だから廉頗の剣であることを辞めることに抵抗はなかった。
だからもう戦場には戻らない……