第35章 一歩②(輪虎side)
こんなことを考えていたら季節はまた一つ進んでいた。
春を迎えた秦も魏と同じように春の花が咲いている。
その日、葵と街を歩いているとある露店に葵の花の耳飾りを見つけた。
それは魏で買った物によく似ている…
「ねぇ、葵。これ…」
葵も気付いたようで顔を近付けて微笑んでいる。
それを手に取るとそっと耳につけてあげた。
「可愛いよ。」
「ありがとう…」
それはあの日と同じ風景…葵の笑顔が見たくて、葵への気持ちに気付いて、大切にしたくて…
微笑みながら見つめていると信の声が響いた。
「おーい、輪虎ー!」
振り返ると葵を抱き上げ空を見上げた。
「街中でイチャイチャすんなって言ってるだろ!!」
「だからあげないよ。」
僕も葵も信も……笑っていた。声を出して…
それは将軍でも廉頗四天王でも飛信隊でもないただの輪虎…
そして青空の下、笑顔の葵に想いを紡いだ。
『ねぇ、葵。こんなこと言ったら君は笑うかな?僕が葵と出会ったのは天の計らいだと本気で思ってるんだよ。
戦災孤児だった僕が殿に拾われて廉頗四天王に、廉頗の剣になるべく戦場に立ち続けたのも…殿と共に魏国に亡命したのも…山陽で信と対決したのも…すべて君に出会って生きる為だった…そう思ってるんだ。
だって君は国も時代も飛び越えて僕に出会ってくれて愛し合えたんだから。
ふふっ、僕らしくないよね?でもこれが正直な気持ちなんだ。だからもう二度と離さない。秦の空に紡いでいくよ…君と二人で……』
もう一度、笑顔で葵を見つめるとあの日と同じ抜けるような高い青空の下、僕は愛しい人を抱いて一歩踏み出した……
~fin~