第3章 早駆け①(夢主side)
(あれ?こんなこと思うなんて可笑しいよね…
今日の事はこの世界の楽しい思い出のひとつにしよう。)
そう心に決めた。
肩に心地よい重さを感じながら私は無意識に歌を口ずさんでいた。それは淡い恋の歌……
しばらく歌っていると輪虎様が起きてきた。
「ん……」
「あ…ごめんなさい。起こした?」
(ホントはもう少しこうしていたかったけどもう時間だよね…)
軽く欠伸をすると輪虎様が起き上がり伸びをしながら告げた。
「いや…そろそろ帰ろう。風が冷たくなってきた。」
(そう…だよね…もう帰らないと…)
それは今まで感じたことのないとても寂しい気持ちだった。でも、それを隠すように深々と頭を下げた。
「はい…あの!今日はありがとうございました!一瞬でもこんなに綺麗で素敵な所に来れて楽しかったです!」
すると輪虎様のちょっと怒ったような声が聞こえた。
「葵、誰が君をもう一度あそこに連れて戻るって言った?僕の屋敷に一緒に帰るんだよ。」
「へっ…?」
驚いてすっとんきょうな声が出てしまった。
「何その声?そんな声も出せるの?ホント君って面白いね。」
輪虎様が肩を震わせて笑っていて恥ずかしくなった私はさっきとは違う意味で顔が赤くなった。
「それは…だって…輪虎様が…」
言い訳しようとしたけど言葉は出ないし輪虎様はクスクス笑って聞いてなかった。
来た時と同じように輪虎様に抱えられて馬が走り出すと見上げた空はもう夕焼けを映し始めていた。