第29章 帰還②(輪虎side)
それ以上は言葉になっていなかった。
温かな肌、体中の痛みにようやくこれが現実で葵の元に帰ってきたんだと気付いた。
「…そっか……ただいま…ごめんね…遅くなって…」
その瞬間、わぁっ…と葵が泣き崩れた。
「ふふっ…相変わらず泣き虫だね…」
変わらないその姿に頭を優しく撫でた。
「だって…だって……」
そのまま抱き締めようとしたけど体中が痛くて動かなかった。
「あぁっ……痛いなぁ…ははっ…体が動かないや。」
痛みで頭に触れていた手を下ろしてしまった。
「…!すぐに薬湯を準備するね。」
葵は涙を拭くと部屋から出ていった。
周りを見渡すと確かにそこは魏国の自分の屋敷、自分の部屋だった。
「本当に帰ってきたんだ…でもどうやって?あの時、信の剣は確実に僕を捉えてたと思ったんだけどな……」
分からないことだらけで混乱していた。
ふと左手に目をやるとあのお守りを握り締めていることに気が付いた。
お守りには血と泥が染み込んでいる。そして左手はやはり動きが悪かった。
葵が薬湯を持って戻ってくると匙で一口ずつ飲ませてくれた。
「飲んだら休んでね。」
そう笑顔で言われ僕は再び眠りについた。
それは久しぶりの穏やかな眠り…葵はずっと手を握り締め時々髪を撫でてくれていた。