第29章 帰還②(輪虎side)
それからも葵は毎日、甲斐甲斐しく僕の看病をしてくれた。
お蔭でまだ起き上がれないけど少しずつ体は動くようになっていた。
その中であのあとの事を少しずつ聞いた。
信は何故か僕の首を切らなかった。そして僕を殿の所へ送り返してくれたそうだ。
信が何を考えてそうしたかは分からない。ただ僕が死んだと思ってのことだろう。
でも、僕は奇跡的にまだ生きてた。もちろん虫の息だったけど…
それに気付いた殿が救護兵に必死に治療をさせたそうだ。生きれる可能性はごく僅かしかないと言われたらしい。
それでも殿は僕を葵のところまで送り届けてくれた。
そして……戦は魏国が敗北し、その責めを負った殿と姜燕さん、介子坊さんは楚へさらに亡命したと…
僕の私兵はほぼ全滅していた。副官は何とか生き延びて殿と楚へ逃れたみたいだ。
屋敷に来た副官は葵に「輪虎様をお守りできなくて申し訳ありませんでした!」と土下座してたらしい。
葵は困り果てたらしくその光景がありありと想像できて本当に可笑しかった。
その時、僕の剣を一本届けてくれた。もう一本は戦のどさくさに紛れて無くなってしまったらしい。
この屋敷は殿が魏国王に掛け合ってそのまま使えるようにしてくれたそうだ。
ただ、敗戦の責めは受けないといけないらしく僕が動けるようになったら出て行くように言われていると葵がゆっくりと説明してくれた。
殿のお気持ちがとても嬉しく本当に感謝しかなかった。
自分のこと、葵のこと、これからのこと…考えないといけないけとは山積だけどそれでも今は葵の側にいることが、葵の笑顔が隣にあることがただただ嬉しい……
生きて葵の元に帰ってきた…それは奇跡。
きっとこのお守りが…クローバーがもたらした幸運…
窓から見えた空はあの日のような綺麗な青空…
(信……僕も君達のように天に愛されたみたいだよ…)
お守りをかざしてその先の綺麗な青空を見ると穏やかに微笑んだ。