第28章 帰還①(夢主side)
輪虎が戻ってから半月程経ったけどまだ目覚めなかった。
もしかしたら本当にこのまま目覚めないのかも知れない…
そんな不安が過ったある日、部屋を掃除していると輪虎が動いた気がして駆け寄った。
見ると今まで真っ白だった顔色に僅かに赤みが差している。
「輪虎…!輪虎…!」
名前を呼んだけど反応はなかった。
それでも今までとは違う変化に側を離れられなくなった。
少し嬉しくなって髪を撫でながら歌を歌い始めた。
それは初めて輪虎に会ったあの日に歌っていた歌…
すると微かに手が動いた…!
その様子に涙が溢れた次の瞬間、輪虎の目がゆっくり開いた…それはいつもの寝起きのような顔…
涙が止めどなく流れていた。
ゆっくり右手が持ち上がり頬に触れた。温かくて優しい輪虎の手……
「……これは夢…?僕はまだ夢を見てるの…?」
変わっていない優しい声…
「……っ…何度も…何度も夢に見たよ。輪虎が…私のところに…帰ってくる……でも……もう夢は嫌だ………っ……」
それ以上は言葉にならなかった。
「…そっか……ただいま…ごめんね…遅くなって…」
ようやく輪虎から「ただいま」の一言が出て帰ってきてくれたのだと思ったらわぁっと泣き崩れてしまった。
「ふふっ…相変わらず泣き虫だね…」
いつもの優しい声で優しく頭を撫でられた。
「だって…だって……」
もう何も言えなかった。
「あぁっ……痛いなぁ…ははっ…体が動かないや。」
頭に触れていた手がパタンと下がった。
(そうだ!泣いている場合じゃない。まだ治ってないんだから。)
「…!すぐに薬湯を準備するね。」
涙を拭うと部屋から出て台所へ向かい薬湯を持って戻ると匙で一口ずつ飲んでもらった。
「飲んだら休んでね。」
笑顔でそう言うと輪虎は再び眠りについた。
それはいつも見ていた穏やかな寝顔…
その寝顔が愛しくてずっと手を握って髪を撫でていた。