第26章 別離②(輪虎side)
「ん…ありがとう。その綺麗な涙も可愛い笑顔も僕以外に見せちゃダメだよ。」
そう言って最期の口付けを交わした。
「ご武運を…」
「うん。行ってきます。」
もう一度笑顔を向けると外に繋いでいた馬に跨がり屋敷を後にした。
葵はずっと手を振っていた。
一度、振り返るとお守りを掲げていつもの様に微笑み葵を目に焼き付けた…
そのまま本来なら私兵を連れて王都を後にするが、殿の屋敷に少し寄り道をした。
「おお、輪虎。どうした?」
「殿、一つお願いをしていいですか?」
僕が出陣前にそんなことしたことなかったから殿は驚いていた。
「なんじゃ?」
「この店にあるものを頼んでいます。あと3日程で出来上がるので葵に届けて貰えませんか?」
それは出陣が決まり不安そうにしている葵の為に用意した玉(ぎょく)。大急ぎでと頼んだが間に合わなかった。
だから殿にお願いすることにして寄り道した。
この言葉に殿はさらに驚いていた。
「珍しい…いや、初めてのことじゃな。」
「そうですね。」
微笑むと殿は察した様に笑っていた。
山陽に着くと中央軍を任されることになった。
でも、その前に秦国の戦力を奪うため千人将を数人と将軍を一人暗殺しておいた。
その時、一人の少年に出会った。
「飛信隊の信」と言い、とても綺麗な力強い目を持った不思議な少年…その目はどことなく葵にも似ていた。
そして、戦が始まると予想以上に苛烈なものとなった。
その中で玄峰様が討ち取られたと驚きの知らせが入った。
今回の戦は何かが違うと感じた瞬間…
玄峰様の死は悔しさこそあったが悲しんでいる暇はなかった。その分、僕が取り返さなければならないと考えていた。