第26章 別離②(輪虎side)
出陣の朝、僕の気持ちとは裏腹に空は雲一つない晴天だった。
「泣いていたのか……?」
頬を擦りながら呟くと葵が起きてきた。
「ん…おはよう…」
「おはよ…」
それ以上は何も言えなかった。
いつもの笑顔で優しく頭を撫でると支度を始めた。
朝食も二人でいつも通り食べたけどほとんど会話はなかった。
時々、他愛のない話をしたけど葵はほとんど聞いていないようで常に泣きそうな顔をしていた…
ホントは今すぐに抱き締めたかった…
でも、そんなことするときっと離れられなくなる…二度と葵を離せなくなる…そう思って自分の気持ちを抑えるのに必死だった。
朝食を食べ終わったらもう時間だ。
立ち上がると甲冑を纏い双剣を腰に差した。
葵から貰ったお守りは甲冑の裾の裏にそっと括り付けた。
戦場に向かうこの瞬間…それは特別なことじゃない。いつもそうしていた。でも、今までと一つだけ違うことがある…
側にいる葵だ…いつも笑顔で見送って出迎えてくれた。
だけど、今日は笑顔は向けてくれない。
分かってる…今、葵がどんな気持ちなのか…
外に出て行こうとした瞬間、後ろから抱きつかれた。
「ごめんなさい…分かってる…でも………」
葵の方に向き直すと正面から抱き締めた。今までで一番強い力だったと思う。
「うん…分かってる…分かってるよ……」
その目からは大粒の涙が溢れていた。
「約束する…必ず帰ってくる。どんなに時間がかかっても必ず葵のところに…だから信じて待ってて。僕のこと信じてくれる?」
涙を拭いながら優しく微笑んだ。
「……うん…必ず待ってる…ずっとずっと…」
泣きながらも何とか葵は微笑んでくれた。それだけで十分だった…