第2章 出会い②(輪虎side)
葵が歌い終わるとパンパンと軽く手を叩いて立ち上がった。
「やっぱり綺麗な歌声だね。それにいい歌だ。」
「ありがとうございます…」
少し恥ずかしそうにはにかんで葵が頭を下げた。
(あ、可愛い。なんだ…笑うと可愛いじゃないか。)
柄にもなくそんな事を思ってしまったことに自身で驚いた。
すると、葵が少し困ったように話しかけてきた。
「あの…そろそろ仕事に戻らないといけないのですが…」
(そっか。葵は仕事中だったね。でもこのまま帰したくないな~。どうしてかな?この子に俄然、興味が湧いた。)
そんな葛藤を知らない葵は返事をしない僕を不思議そうに、しかし遠慮がちに覗きこんできた。
その瞳からもう目が離せない…
「あの……」
「うん、やっぱり無理だね。」
言葉の意味が全く理解できない葵は本能的に後退りしていた。
葵が一歩後退りすれば自分は一歩迫った。
そして、その腕を無遠慮に掴んだ。
「ごめんね。このまま君を拐っていく。僕こう見えて欲しいものは我慢しないタチなんだ。」
ニッコリ笑って伝えた。
そう。自分の顔はどうやら優しく見えるらしい。そして童顔と散々言われてきた。
そういえば魏国王には『女子(おなご)のごとき少年』とまで言われたことがあったな…
(葵にもそう映っているのだろうか?
いや、今この状況ではただの人攫いかな?)
腕を掴みながらそんなことを思っている自分がらしくなくてまた面白くなってくる。
一方の葵は状況理解が追いついてなく言葉が出ない様子だ。
「よっと…」
そんな葵を尻目に肩に担いで歩き出す。
「あ、あの!困ります!」
葵は本当に困惑していた。
顔は自分の背中側にあるから表情は見えないが初めて聞くしっかりした口調が雄弁に伝えてくれた。
「大丈夫。僕は困ってない。」
鼻歌混じりにそう言って歩き続ける。