第2章 出会い②(輪虎side)
「はっ?」
「な・ま・え。外国人でも名前くらいあるでしょ?」
「はい…葵と申します…」
葵と答えた下女はまた俯いてしまった。
(何で俯いちゃうかなー?綺麗な瞳を見たいな。)
……何考えてるんだ?と少し自分の感情に驚いた。
「ねぇ、顔上げてくれない?僕は君と話ししたい。あとさっきの歌をもう一度聴きたいな。」
葵がゆっくりと顔を上げた。緊張からか少し表情は強張っている。
「あの……」
(ああ、話がしたいと言ったのは僕だったな。とは言っても何も考えてなかったのも事実だ。)
「そうだね…今は何してたの?」
「ここの掃除です。そしたら夜来香の芽が出ていたのであの歌を思い出してつい口ずさんでいました…」
そう話す葵の顔はまだ強張っているけど少し緊張が解けたようにも見えた。
「へ~君の国にも夜来香があるんだね。ねぇ、歌ってよ。」
そう言って横の木の根元に腰かけた。
葵はそんな僕をチラリと見るとすっと立ち上がった。
自分より高くなった葵を見上げる。顔は見えないけど耳や首筋が少し赤く色付いてるのが見えた。
その先にはさっきまで塀の上で見ていた青空……
「綺麗だ……」
その呟きは春の風に拐われた…
葵の歌声が聞こえてきた。
(やっぱり綺麗な歌声だ。それにどこか憂いを帯びてる?遠い国から来たみたいだし祖国を思ってるのか?
…自分はどうだ?敵国に滅ぼされた村。殺された両親、守れなかった妹…
どうしてだろう?普段なら考えないことがどんどん思い浮かぶ。この歌声のせい?)
そんな自分がよく分からなくなって軽く首を振った。