第20章 激情②(輪虎side)
しばらくして様子を見に行くと葵は上手に馬に乗って走っていた。
「へ~…この短時間であの馬を乗りこなせるようになってる。スゴいね…」
少し驚いていると、僕に気付いた葵が馬を走らせて近付いてきた。
「輪虎!見て見て!だいぶん乗れるようになったよ!」
その顔は汗と土埃にまみれていたけどとても良い顔だ。
「スゴいね。こんな短時間で乗れるようになるなんて思ってなかった。」
「二人の指導が上手だからだよ。それに…歴史はダメだったけど体育は結構得意だったんだ。」
「ん?タイク?何それ?」
「あ、いや…何でもない…」
すると副官も駆け寄ってきた。
「輪虎様!いやぁ、葵殿は凄いです。この牝馬を乗りこなせるとは。相性も良いようです。」
「うん、そうみたいだね。このまま葵の馬にする。ご苦労様。」
「いえ、とんでもありません!輪虎様の基本の指導が良かったからです!」
何故か一生懸命な副官が可愛いくなってくる。
「あはは、それはありがとう。葵、その馬は君にあげる。でも、一人で遠くに行っちゃダメだよ。外は危ないからね。」
「えっ?いいの?こんな立派な馬を貰っても。」
「うん。その馬乗り手がなくて困ってたんだ。」
「そうなんだ。これからよろしくね。」
そう言いながら笑顔で馬を撫でている。
そんな葵の様子を僕も笑顔で見つめていた。
そして、そのやり取りを見ていた副官は少し驚いているようだった。
事件が起こったのはそれからしばらくしてからだった。
その日、昼過ぎに屋敷に帰ると葵の姿がなかった。
下僕に確認すると一刻程前に馬に乗って出かけたままだと言っていて血の気が引くのが分かった。
「マズい……!」
焦って馬に飛び乗ると一気に走らせた。