第2章 出会い②(輪虎side)
硬直していた下女だが目を丸くし小刻みに震えながら跪くと震える声で答えた。
「……はい……私が歌って…いました…申し訳ありません……」
最後は消え入りそうな声だったが可愛いらしい声だと思った。
そして、どことなく下女らしからぬ雰囲気を感じた。
それが何かは分からない。あえて言うなら武人の勘とでも言おうか…
「どうして謝るの?それよりさっきの歌は魏国のもの?聴いたことのない歌だったんだけど。」
下女は顔を俯かせたままやはり震える声で答えた。
「…いえ…魏国のものでは…私の時代…いえ!私の生まれた国の歌です…」
時代という言葉に少し違和感を覚えたが下女は言葉を続ける。
「すいません!あの、今は魏国の人間です!決して魏国を裏切ったりなどしてません!ですから…お許し下さい……」
(ああ、そうか。自分が他国の間者だと思われて将軍である僕に責めを受けると思ってるのか。)
「僕は魏国の人間じゃないよ。」
自分も片膝をついて下女の目の高さに合わせ微笑んだ。
「えっ………」
思わず顔を上げた下女と目が合った。
綺麗な瞳だ…素直にそう思ったのが第一印象。
「僕は趙国から亡命してきた殿についてきた趙国人だ。だから例え君が魏国を裏切っていたとしても僕には君を責める資格はないよ。」
笑顔でそう伝えさらに続けた。
「君の国の歌って言ってたけどどこ?趙国ではないよね?聴いたことないし。だとしたら秦?楚?」
下女は再び俯いてしまった。
「いえ……もっと遠い国です…中華から離れた…」
そこで言葉は途切れた。
(何か訳ありぽいな。これ以上は聞かない方がいいか…)
「そっか…なら質問を変えよう。君、名前は?」
下女は目を丸くしてまた顔を上げてくれた。
やっぱり綺麗な瞳だ…