第2章 オフ中。
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『──えーがおと雄叫びでーっ──』
熱唱。
『よーのなかを照らし出せーっ!!』
熱唱。
『いくぜーっ!! レッツゴー!!』
もうなんでもいいから叫びたい。
久々のバイトも大学もお休みの完全オフ日。
『オフ』って言い方、何だか芸能人みたいで、勝手に優越感。
家に居たってどうせ昼寝して終わるだろうなと思って、カラオケに来た。
バイト先のカラオケ。
そこそこのブラック企業の割りには、設備はまぁまぁよろしなのだ。
思い立って、すぐ行動。
カラオケフリータイムで、大人げなく熱唱。
でも熱唱のためのカラオケだものね。誰も私を止める権利なんかないわよね。
一曲一曲を全力で歌って、早小一時間。
グラスの中のオレンジジュースは空だった。
「‥‥入れてこよう」
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ガーッ
と、オレンジジュースが出る音に混じって、どこかの部屋の歌声が聞こえてくる。
やっぱカラオケって壁薄いよね? 時々熱唱してる声超聴こえてくるよね?
でも、文句をつけるケチな人なんて早々いない。みんな、自己満足のために来ているんだから。
「うっせぇんだよッ!!! ちったぁ音量下げろやクソがッッ!!!」
───居たッ!?
ぐるりんと振り返ると、目に映るのはあのチクチク頭。
触ることさえ突っぱねているような、そんな、あの頭。
そしてその口調。
誰に対しても崩されることのない、天性の口の悪さ。
極悪人のようなその顔。
「ば──爆豪、さん‥‥」
幸い、あっちは私に気づいてはいなかった。
きっとすごくうるさかったんだろう。たまにいる、加減を知らない人たち。
開いた扉の奥に居たのは、ギャルっぽい女子。高校生、だろう。
プルンとした唇と、淡い茶色のゆる巻き髪。
綺麗でもあるし、かわいくもある。
どこにでもいるような、可愛い女子高生。
ヘラヘラと笑顔を絶やさないまま、手を振る女子高生と、眉間のシワがやばいことになっている爆豪さん。
そのうち、爆豪さんとその子は話し合いを終えて分かれた。
そこで初めて、今の今まで目で追っていたことに気づく。
「何して‥‥って、うわぁ!?」
手に冷たさを感じたと思ったら、オレンジジュースが溢れかえっていた。
慌てて止める。
「嘘‥‥」
手、ベタベタ。まさに地獄絵図。
信じられない‥‥