第11章 あなたとわたしのゆめのえがきかた
「そろそろ···私怒られそう。勝己くんのお母さんに」
「あ? ···ババアの言うことなんか気にすんなよ」
「そんなわけには」
すると、突然抱き寄せられた。
顔が肩に押し付けられる。···息が出来ない。
「···く、苦し···」
「誰になんて言われようと、俺はここから離れるなんて考えねぇ。···考えたかねぇよ」
───胸の奥から、何かが込み上げてくる。
いつも翻弄される、この人には。
直球で、熱くて、優しくて、力強くて。
今まで出会ったことがなかったような人。
そんな勝己くんに甘えている自分がいる。
何て言えば、分かってくれるんだろう。
自分の家に帰ってほしい。
待っている人が居るってことを分かってほしい。
毎日夕飯を作って待っている親御さん。
──今日も帰ってこなかった、明日もきっと帰ってこない──そんなの、あっていい筈がない。
「···わかった。···じゃあ、こうする」
家族だけは、何があっても傍に居てくれる存在だと思うから。
その分、脆いものだと思うから。
だから、自ら崩すようなことはしちゃいけない。
「···ここに来るのは、第2土曜日だけ。わかった!?」
「······あ?」
目が点。
第2土曜日に不満があるとでも言うのだろうか。
第2土曜日なら、バイトのシフトが入ってないことが多いから···好都合。
大学も休みだし、次の日も休みだし。
いい条件だと思うんだけどな。
「···なんで第2土曜日なんだよ」
「バイト休みの日だから」
「その日以外は来んなってことか」
「うん、まぁ」
まぁ、っていうか、そう。そういう感じでいこう。
···いつも以上に眉間にシワが寄ってるな。
「わかった?」
小指を差し出す。
軽く舌打ちをして、勝己くんも小指を出した。
「指切りげんまん、約束破ったーら、絶縁します、指切った!」
「何だその歌詞」
「お母さん考案」
不意に勝己くんが頭を撫でてきた。
そうだ、ここでさよならしたら来月まで会えないんだった。
少し寂しそうな顔に見えるのは都合が良いだろうか。
触れるだけのキスをして、扉を開けた勝己くん。
逆行で見えにくかったから、表情は分からなかったけど、私は精一杯の笑顔を見せた。