第8章 求愛中。
って、そうじゃなくて。
「‥‥‥勝己」
「!!」
「‥‥勝己、じゃないの?」
小さかったけど、聞こえてたかな。
名前間違ってたらどうしようっていう不安が、今になって沸き上がってきた。
「‥‥呼んでよ、私の名ま───」
───あれ──?
───キス?
触れ合ってただけのキスが、どんどん深くなっていく。
腰の力が抜けていく気がした。
「‥‥なっ、何‥‥!?」
「玖暖」
「!」
心臓がおかしくなった。
バクバクして、痛い。
血液が全部顔に集まっていく気がする。熱い。
「‥‥玖暖、じゃねぇの?」
「!」
真似したし‥‥
ニヤリと微笑むその笑顔にさえ、心臓が鷲掴みにされる。
耐えられなくなって、俯いた。
「‥‥オラ、こっち向け」
「ちょ、無理矢理‥‥」
顎痛い。外れそうなんですけど。
「‥‥俺のもんになるんだろ? これぐらい我慢しろ」
「だから‥‥その『俺のもん』って、私、物じゃない‥‥ッ」
「あー!! グダグダうっせぇな!! 一生離さねぇって意味だわアホが!!!!」
「えっ」
時が止まる。
‥‥『一生』、『離さねぇ』‥‥
「‥‥おい」
「ダメ、あっち行って」
「は?」
「ちょ、こっち来ないでって」
「何でそっち向くんだよ、アホが」
「アホじゃないし、別に私の気分だからいいでしょ」
「じゃあ俺も俺の気分でいくわ」
「ちょ‥‥っと、」
視界が歪む。
下手な「好き」より、ずっと破壊力すごい。
胸の奥から沸き上がるようにして、涙が溢れてきた。
こんなみっともない顔、見せられない。
「‥‥‥泣いとんのか」
「違う」
「‥‥声震えてんぞ」
「気のせい」
ものすんごい勢いで、爆‥‥勝己の方を振り向かされた。
「‥‥‥ブス」
「っ! あんたよりマシだわ!」
「100人中100人がお前の方がブスって言うぞ」
「‥‥バカ」
「泣くなよ、めんどくせぇ」
トン、と胸板におでこが当たる。
すん、と鼻を啜れば、甘い香りと勝己の香りがした。
「‥‥お前、いっつも俺にしがみついたりしねぇよな」
「‥‥それは」
「そういうのがめんどくせぇんだよ。
‥‥俺じゃダメなんか」
違う。全然違う。
あなたはまだ分からないかもしれない。
分からないかもしれないけど、とても痛いもの。