第6章 思案中。
ヒーローっていうのは、死と隣り合わせの職業で。
ある日、ふらっと家にやって来た爆豪さんは、身体中が傷だらけだった。
「な、何したの‥‥」
「実習でやった」
「実習?」
テストがあったらしく、敵役の先生が容赦なかったとか。
それにしても、この怪我は‥‥
「うちに居て大丈夫なの? 家帰って早く寝た方がいいよ?」
「あ? 俺はここの方がいいんだよ」
くっ‥‥
胸が締め付けられた。あ、これアレだ。胸キュンだ。
いつもは全く素直じゃない人の突然の素直さは破壊力ハンパない。
粉々に砕けそうになってしまった。
「待ってね、今お茶持ってくる」
「んなもん要らねぇわ」
「え、いやでも」
「はよ来い」
いつものごとく、舌打ちされながら呼び掛けられる。仕方ないから、お茶は断念して彼の元に駆け寄った。
「‥‥はぁ────」
「! え、」
隣に座った瞬間、もの凄い力で抱き寄せられた。
構えていなかった心臓が、忙しなく鳴る。
いつもなら騒ぐところだけど。今日の爆豪さんは何だかお疲れみたいだから。このままにしてあげよう。
背中に腕を回してポンポンと叩く。
腕の力が強められた気がした。
「‥‥もっとこっち来い」
「え」
もっと、って‥‥
「これ以上近づけなくない?」
「あ? 言わなきゃわかんねーのかよ」
「‥‥‥」
‥‥膝の上座れってこと?
逆らっても結局は同じ結末が待ってそうなので、大人しく動く。
「‥‥はぁー‥‥」
「疲れたんだね」
「‥‥まぁな」
首に当たる髪の毛が毎度の如くチクチクする。
そのうち、寝息のようなものが聞こえてきて。
本格的に寝てしまったようだった。
「‥‥黙ってれば良い男なのに‥‥」
すぐそこで聞こえる寝息は、毎日の授業がどれほど過酷なのかを物語っていた。
こうしてみると、やっぱりまだ子供。
大人びている彼にビックリさせられることもあったけど、普通の、ごく普通の高校一年生だ。
こんな歳から、なんでそこまでキツいことをするんだろう。
‥‥‥もしかしたら、この子は‥‥
どこか、心が休まる場所が欲しかったのかもしれない。
家族でも補えないもの。私も、実家が一番休まるかと言うと、そうでもなかった。
どこか、どこでもいいから──
──そんな場所が、欲しかったのかもしれない。