第3章 居座り中(?)。
震えるお母さんは、渋々と言った様子で、
「‥‥15時半発‥‥」
と告げた。声小っさ。
「わかった。じゃあ、すぐ帰ってね、マジで」
「んー‥‥なんで親子なのにこんな信用ないんー?」
こっちがマジで訊きたいそれ。
──────---
大学もギリギリ間に合い、長い長い授業が終わる。
今日もバイト漬け。でもそうじゃないと生きていけないし。
「‥‥お母さん、さすがに帰ったよね」
あの時、一言でも『ありがとう』って言うべきだったよね。態々(わざわざ)ここまで来てくれたんだし。
店長の活気のいい声が響く。
今日の晩ご飯はなんだろう‥‥なんて、久々に思った。
──────---
「じゃあ、お先失礼しますー」
「お疲れ~」
ようやくバイト終わり。
裏口から外に出る。お母さんに連絡しようと───
「よう」
「わっ」
───したら、爆豪さんが居た。
え、もしかしてここで待ってたの? ずっと?
見た目に反して健気。
「ど、どうしたの?」
「あ? 来ちゃ悪ぃかよ」
「そうじゃないけど‥‥」
「お前ん家行く。案内しろ」
「え!? ちょ、いきなり‥‥!?」
どういう思考でそうなったの?
前をズンズン歩く爆豪さん。
「あ! でも家には‥‥」
‥‥‥お母さん、もういないよね‥‥?
もしいたら、やばい。
パッパッと画面を打つ。
『もう帰った?』
お願い、既読ついて──!
「チンタラすんな、マヌケ」
「‥‥あー、もうっ」
最後の一瞬まで、既読はつかなかった。
どうか、居ませんように。
──────---
「‥‥ふつーのアパートだな」
「何を求めてたの」
階段を上る。上りながら考える。
携帯、さっきから見てるけど既読つかない。移動中だから?
‥‥あ、そういえば、鍵、貸したまんまだ。
郵便ポストに入れとくって、言ってた気がする。
「ちょっと待ってね」
「おー」
扉すぐ横の郵便ポスト。中に───
───鍵なし。
「‥‥‥え?」
「あ?」
───悪い予感が巡る。
2パターンの悪い予感。
鍵、盗まれた?
あり得るかも。だって、鍵つきのポストじゃないし。
それか───
‥‥考えたくない。考えたくないけど‥‥
‥‥‥お母さん、まさか、居る?