第3章 居座り中(?)。
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気がつくと、脇腹に重さを感じた。
眼前は、見覚えのない部屋。お腹に回された、逞しい腕。首に当たる、チクチクした何か。
薄暗い部屋の中は、仄かに甘い香りがしていた。
「‥‥あぁ‥‥」
そっか。
私、ついさっきまで、ここでヤっていたんだ。
すごく、久しぶりの情事。最中の自分の言動が曖昧で恐ろしい。
どうやら私の背中に顔をくっつけているらしい爆豪さん。
チクチクした髪の毛がくすぐったい。
だけど、ずっとこのままな訳にもいかないし‥‥、こういうのも、今回限りにしないと。教育に悪い。
って思ってみるけど、本当は──
「起きたか」
「うわっ」
グッと力む腕。
大きな欠伸をした爆豪さんは、ゆっくりその身体を起こした。
私も起き上がる。床に散乱している服をかき集めて、下から順に着ていく。
早く、帰らないと。
「‥‥おい」
「え?」
スウェットを着たところで、後ろから抱き締められる。というか、ホールドされる。ちょっとニュアンスが違う。
グッとホールドされた身体は、ビクともしなかった。
ちょ‥‥、
「私、帰らないと‥‥」
「誰が帰すなんて言ったんだよ」
ドク──
心臓が大きく脈打つ。
あなたは、私が一番欲しい言葉を放ってくれる。
だけど、それは今じゃないの。
「‥‥私たち、知り合ったばっかでしょ? 不毛だよ、こんなの」
世に言う、セフレ? そんなの、私は望んでない。別に要らない。
うなじがチリッと切れたような気がした。
突然すぎて、声も出ない。
でも、だんだんと痛みが増して。
「痛っ‥‥、な、何したの?」
「テメェが不毛だとか何だとか言うからだろ」
「ほ、本当のことじゃない」
「俺はそう思ってねぇ」
首筋に吸い付かれる。
音を立てて残っていく痕の気配が、なんだか官能的だった。
「‥‥逃がさねぇって決めたんだよ。
分かったら、大人しく俺の傍に居ろ」
思わせ振りな言葉。
それがもし常套句なら、私は即座にこの場を離れたい。
こんなことで、時間を無駄にしたくない。
「な、にそれ‥‥」
「チッ‥‥、いちいち言わねーとわかんねーオツムか、お前」
癪に触る言い方‥‥抑えろ、私。
クルっと半回転させられ、目の前に来る爆豪さんの顔。
後頭部を支えられ、間近に迫るその唇。
食むように、口付けられた。