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あの日、あの時、路地裏で。

第4章 路地裏イチャイチャ in 兵長



天高く、馬肥ゆる秋…

噴水のある広場には時折、さらりとした心地の良い風が吹き抜ける。

賑やかな市場には、夏とは違ったほっと一心地つく陽射しが絶え間なく降り注ぐ。





今日は、この市場で数か月に一度の、大安売りの日。

店主は普段以上に仕入れに気合いが入るらしく、その証拠に滅多にお目に掛かれないような珍しい品が店頭に並んでいる。

それだけではない。

広場は勿論、軒先の空きスペース、レストランや喫茶店の店内、はては歩きながら…あちらこちらで競うように、催し物や大道芸人の見世物などが華を添える。


その様子は、さながらお祭りのよう。


故に、人出はいつも以上。
まともに歩くことさえままならない。


「チッ」


そしてそんな楽しげな雰囲気に似つかわしくない、実にキレのある舌打ちが一つ、路地裏に響いた。



彼が人嫌い、かどうか定かではないが、少なくとも人混みは苦手だ。わざわざ、好き好んで近付きたくないものの一つである。

休憩も兼ねて逃げるように路地裏に足を踏み入れるも、ちらと横目で見た人混みにいずれ戻らなければならない。

そう思えば、無意識に舌打ちもでようもの。


だが、そんな彼が何故こんな日に限って市場に足を運んだか…


(……)


ふと落とした視線の先、彼の手には未晒しの紙の手提げ袋。
その中身はハーブティー。つい今し方、避難している路地裏の片方の建物、市場でも評判の花屋で買い求めたものだ。

茶葉の紅茶とは違い、普段、自ら進んで口にすることは少ない。

が、これを好きな人物が、身近にいる。



(…)





『あのお花屋さん知ってる?そう、ご夫婦でやってるお花屋さん』
『お花も綺麗なんだけどね、たまに買える店主さんお手製のハーブティー!すごく美味しいの』
『私、大好き』



そんな会話を、たまたま耳にした。

それ以来、何故か気になっていた。

そしてたまの休みに買い求めにきたところ…この人出にあたってしまったという訳。




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