第7章 〖誕生記念〗溺れる微熱に、口づけの花束を / 石田三成
『一緒にお祝い出来るの、楽しみだなぁ』
そう、可愛らしく微笑んだ貴女が忘れられない
貴方の大切な日は、私の大切な日だよ、と
まるで、野に咲く可憐な花のような笑みをくれた
貴女との大切な約束を守る為なら
私はどこに居ても、何をしていても
必ず貴女の元へ帰って来ますよ
それは私が決めた、大切な決まり事
『私は貴女に溺れてる』
そう確信した、あの日から
『貴女が大好きですよ』
そう貴女に告げた、あの瞬間から……
貴女は、何より大切なお姫様なのだから
今日も私を困らせてみせて?
その笑顔で、声で、唇で
それは、貴女に翻弄された、ある一日のお話──……
(今日は帰れそうもないな、やっぱり)
屋敷から空を見上げ、思わず溜め息をつく。
その茜に染まりかけた天は、今日の終わりを告げていて……
私は愛しいあの方を想い、少し心に影を落とした。
安土から近隣の同盟国へ来て、早三日。
内部紛争の調停に来たのは、信長様のご命令でもあり、秀吉様の代理も担ったからだ。
秀吉様は西方の土地へ赴いているから。
私をこの地へ向かわせたのは、秀吉様のご意志だ。
それは私にとって光栄であり、有り難くその任務についたのだけど……
一つだけ、不安があった。
それは今日、十一月六日。
この日までに安土に戻れるか、と言う事だった。
(私一人なら、別にどうでもいいのですがね)
十一月六日、今日は己の誕生日。
毎年、武将様達から宴を開いてもらい、いつもとは違う、少し特別な日でもある。
しかし──……
今年の誕生日の『特別さの度合い』で言えば、過去最高。
今日だけは、絶対に外せない日なのだ。
何故かと言うと、私の最高に愛しい恋人が、今日を祝うのを心待ちにしているからだ。
「三成」
と、その時。
屋敷の縁側から空を見上げていた私に、家康様が声を掛けてきた。
家康様は私と一緒に、内部紛争の鎮圧と調停のために、この屋敷を訪れている。
もうすでに、紛争は沈静化。
対立する当時者同士の頭も引き合わせたし、あとは合意書に調印を押してもらえば、全て解決だ。
その調印のための会合はこれから行う。
その事で呼びに来たのかと思い、私はにっこり笑って家康様に答えた。