第38章 【戦国Xmas2022】聖夜に煌めく想い / 信長vs謙信
「信長様、謙信様、そろそろ休憩にしませんか?」
可愛らしい声が天主の入口から掛かり、会合中の信長と謙信は揃って視線を向けた。
すると、美依が盆に茶と菓子を乗せて運んでくる。
美依は二人の間に腰を下ろすと、ふにゃふにゃと微笑みながら、それらを目の前に置いた。
「作ったばかりだから、きっと美味しいですよ〜」
「ほう…この豆大福はお前の手作りか」
「はい、謙信様!お茶も淹れたてです」
「成程な、では早速」
普段あまり甘いものを食べない謙信も、美依の手作りとあっては食べない訳にはいかない。
そして、それは信長も叱り。
二人はそれを口に運ぶと、満足そうに口元を緩める。
そんな二人を見ながら……美依も安心したように笑んだ。
師走の今日は謙信が安土に赴き、大将同士での会合が執り行われている。
控えの従者はいるものの、話し合い自体は信長と謙信の一対一だ。
和睦が結ばれた今は、お互いの間に諍いはない。
時折定期報告と称して、こうして話し合いが行われているのだ。
美依も一緒に茶を飲もうと、自分の分も運んできた。
湯呑みから茶を一口飲み、ふと外を見る。
さすれば、美依は感嘆の声を上げた。
「わあ……雪だあ!」
「今日は酷く冷えているからな。だが、雪などそう珍しくあるまい」
「そうですけど……今年はホワイトクリスマスになりそう、信長様」
「くりす、ます?」
聞き慣れない言葉に、信長は首を傾げる。
美依はそのまま『クリスマス』について説明を続けた。
ある宗教の特別な日だが、五百年後はその日に宴を開いたり贈り物を贈り合ったり……
特に宗教関係なく、祝ったりするのだと。
美依は目を細め、何かを思い出すように柔らかな声を紡いだ。
「クリスマスに雪が降ることをホワイトクリスマスって言うんですが、クリスマスは聖夜と呼ばれていることもあって、雪が降るとなんか神聖な気分になると言うか」
「成程」
「でも以前いた世の中では当たり前だった行事も、ここでは違うんですよね……」
「……」
「またクリスマスが出来たら嬉しいけど、それは難しそうです」
美依の口調が少し寂しげになったのを信長と謙信は見逃さなかった。