第36章 【戦国Xmas2020】明智光秀編
「それじゃ…行ってきます」
「────美依」
誰に言う訳でもない、出かけの挨拶をひとりぽつりと呟いた時、後ろから声が掛かり、私は玄関から振り返った。
すると、廊下の奥から光秀さんが来る。
手には花柄の襟巻きを持って…
光秀さんは私の傍に来ると、にやりといつものように意地悪っぽい笑みを浮かべた。
「忘れ物だぞ」
「あ、襟巻…すっかり忘れてた!」
「追いかけてほしくて、わざと置いていった訳ではないのか」
「普通にうっかりの忘れ物です…」
「まあいい。出かけるのであれば声を掛けろ、いくら政務をこなしていても…見送りくらいは出来るからな」
そう言って、光秀さんは私の首にふわりと襟巻きを掛ける。
光秀さんの言葉に…
申し訳ないとは思いつつも、嬉しくて私は笑みを零した。
(忙しそうだから声掛けなかったのに…気づいてくれるなんて、やっぱり優しいな)
依頼先に届け物をするために、御殿から出かけようとしていたのだけど…
光秀さんの部屋を覗いたら、なんだかとっても忙しそうだったから、声を掛けずに行こうとしてたんだよね。
でも、光秀さんは私の忘れ物に気づき…
こうして玄関まで届けて、見送りに来てくれた。
本当に私の恋人は優しくて甘い。
……幸せだなぁ。
思わずそれを噛み締めていると、光秀さんも今度は穏やかな笑みに変わり。
私の首に巻いた襟巻きの端に触れて、懐かしむように言葉を紡いできた。
「……この襟巻きをお前に贈ってから、もう一年か」
「え?」
「今日は"くりすますいぶ"だろう?」
「よく覚えていましたね」
「忘れる訳がない。お前と想いを交わした日なのだからな」
そう言って、光秀さんは今度は私の頬に触れる。
相変わらずの冷たい指先に、なんだか『その日』を思い出してしまって、心が熱を帯びた。
────一年前の十二月二十四日
クリスマスの宿り木の逸話を光秀さんに話したら、俺と行くかと誘ってくれたんだ。
『宿り木の下で口づけをすると永遠に結ばれる』
この時代にも『ほよ』と呼ばれる宿り木があって、光秀さんはそこに連れて行ってくれて。
私達はほよの木の下で口づけを交わし…そして想いを伝えあったの。