第24章 〖誕生記念〗艶やか椛と嫉妬の蜜菓子 / 明智光秀
「光秀さん、これからちょっとお城に行ってきますね!」
椛(もみじ)も色づいた、秋晴れの日。
自室で文の片付けをしていた俺の元に…
ひょっこり顔を出した美依が、何やら満面の笑みでそう告げた。
(……随分嬉しそうな表情だな)
今日は何かあったか…と考えてみるが、特に何も思いつかない。
城に行くのが楽しみなのか?
俺は一旦手を止めると、襖の所に居る美依を手招きで傍に呼ぶ。
そして、美依が俺の傍に座ると…
俺はくいっと美依の顎を指で掬い、その黒く真ん丸な瞳を覗き込んだ。
「いつもに増して呑気な表情だ」
「はい?」
「城に何か楽しみな事があるのか、美依」
「えっ…な、何にもないですよっ」
俺は普通の問いかけをしただけなのに、美依はまるではぐらかすように、俺から視線を逸らす。
……俄然、怪しい。
これは何か隠しているのが一目瞭然だ。
美依は隠し事が本当に下手だから。
上手く誘導して、その『隠し事』を吐かせるのもいいかもしれないが…
少し泳がせて、後から暴くというのも快感を覚えるというものだ。
ここは一旦引いてやろう。
そう思った俺は顔を近づけ、ちゅっと軽く唇を啄んだ。
「……っ、光秀さんっ」
「気をつけて行っておいで」
「は、はいっ…行ってきます」
美依は口づけられて、びっくりしたように目を見張ったが、頭を軽く撫でてやったら、今度はふわりと笑みを見せた。
可愛い。
表情がくるくる変わる度に、心の中には愛しさがさざ波のように起こる。
甘い余韻に酔いしれたまま、美依を見送って、また部屋に一人になってみれば…
今度は何とも言えない寂しさに襲われた。
中途半端に美依に触れたからだと。
少しだけ触れた唇に指で触れてみたら、そこにはまだ柔い温もりが残っている気がした。
(……このような感情を抱える日が来るとはな)
己に小さく苦笑する。
このように我が強い人間だったかと
自分に少しだけ呆れながらも…
美依がもたらした己の変化に、抗うどころか丸ごと受け入れて、なおかつ心地良さまで覚えていた。