第22章 〖誕生記念〗小生意気な彼女 / 真田幸村
(……大丈夫か、あれ)
思わず、食べる箸が止まる。
俺は少し離れた所で一人、酒を煽る美依を見ながら、小さくため息をついた。
今夜は宴だ、主役は不本意ながら俺。
今日は俺の生まれた日という事で、春日山城のいる面々が俺のために宴を開いてくれたのだ。
信玄様、謙信様、佐助に義元。
それぞれが祝いの品を用意してくれていたり、こうして宴まで開いて祝ってくれるのは、少しこそばゆくも有り難い。
しかし……
俺には残念ながら、その宴を心から楽しめない理由がある。
それは、さっきから一人でぱかぱかっと酒を飲み進める、俺の恋仲の女。
美依が原因だ。
「おい、佐助」
「どうしたの?」
「ちょっと美依にあんま飲みすぎんなって言ってきてくれ」
あまりにも心配になり、俺は隣で料理に手をつける佐助に声をかけた。
佐助は無表情でもぐもぐと口を動かし…
やがて、眉一つ動かさずに、さらりと言ってのけた。
「自分で言ってくればいいと思う」
「それが出来ねぇから頼んでんだろ」
「また喧嘩中?」
「……」
図星を刺され、俺は思わず黙り込む。
すると、佐助が小さくため息をついたのが聞こえ…
多分呆れられたんだろうなと、俺自身も深くため息をついた。
────きっかけは、些細な事だった
昼間、美依と一緒に城下で買い物をしていて、ちょっとした事で言い合いになり…
俺は完全に美依を怒らせてしまったのだ。
それは俺が美依に向かって、ついはずみで『ブス』なんて言ったから。
美依は目を真っ赤にさせて、走って行ってしまった。
心にもない事を言ったと後悔した。
美依がブスなんてありえないのに。
むしろ……
(この世で一番可愛いとすら思う)
怒った顔、笑った顔、困った顔。
どの顔を見ても、すごく可愛い。
惚れた弱みでもなんでも…
美依以上の女はいないと、そう思う。
でも、素直にそう言える性格ではない。
言うのが恥ずかしくて、それを誤魔化すのに、思ってもいない言葉が零れてしまう。
今回の喧嘩の原因もそれだ。
本当にこの不器用な性格が、恨めしく思ってしまう。