第20章 〖誕生記念〗暁に咲く夢見草 / 豊臣秀吉
「ぁっ、だめぇっ…もう……!」
「はぁっ…美依、出るっ……!」
────秘密の交わりは、桜の舞う下で
はらりひらり舞う、薄桃色の花びらは、
私の肌を滑り、その身をさらに染めた。
朝焼けが眩しくて、虹色だった空は
気がついたらすっかり天色になっていた。
肌を重ね、秀吉さんの腕の中で
安らかな夢を見ながら──……
私は、満ち足りた思いで。
寂しさを埋めてくれた温もりに、
全てを委ねた。
ああ、本当に愛してるよ。
それは伝えても伝えきれないくらいに、
私の心に溢れていったのだった。
*****
「……確実に懐妊してるね、それ」
────それから二ヶ月後
体調が優れない日が続いていた私は、家康の元を訪れて…
今まで心の中で思っていた『もしかしたら』が、確信に変わった。
家康は、良かったねと。
珍しく私の頭を優しく撫でてくれた。
「秀吉さんにはいつ言うの?」
「うん、帰ってきたら知らせようかな」
「文とか書けば。だっていつ帰ってくるか解らないでしょ」
秀吉さんは、あれからまたすぐに安土を経った。
なんと誕生日のためだけに、公務を抜け出して帰って来てくれたのだと…
あの桜の木の下で、秀吉さんは話してくれた。
無理させちゃったんだな。
そうは思ったけど…
やっぱり、帰って来てくれて嬉しかったから。
それが──……
こうして実を結ぶことにもなったしね。
「大丈夫、秀吉さんはすごいんだよ」
「え?」
「私が寂しがってると、すぐに帰って来てくれるの。だから…またすぐに帰ってくるよ」
「…惚気け、ご馳走様だね」
家康はそう言いながらも、優しく微笑んだ。
外で身体を交えたなんて…
それは絶対に秘密だけれど。
離れていた寂しさを、一瞬で埋めてしまう一時だった。
桜の花と、虹色の夜明けと。
そこで契った、秘密の情事。
全てが色鮮やかに刻まれて…
私の心を温めてくれる。
それに──……
待つのも、もう独りじゃないから。
お腹に宿った小さな命と一緒に。
貴方の帰りを…待っているよ?