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【イケメン戦国】零れる泡沫*恋奏絵巻*《企画集》

第19章 〖誕生記念〗焦がれし天色、愛しい君へ《後編》/ 徳川家康






「あれ、あんたはこの前の……」




黒い瞳が、私を見て揺れる。
私は反物屋さんと少し距離を取りながら…
若干作り笑いを浮かべて話しかけた。




「こ、こんにちは」

「今日はこの前の男と一緒じゃないのか?」

「この前見ていた芥子色の反物を買いに来たので…」

「ああ…あの男のため?」

「……っ、あなたには関係ないです」

「まぁ、なんでもいいや」




すると、反物屋さんは私にすっと近づき。
何故か馴れ馴れしく指で頬を撫でた。




「な、何するんですかっ…!」

「ここにはないぞ、あの反物」

「え?」

「売れないから、仮住まいにしてる長屋に置いてきちまったんだ。良かったら取りに来るか?安くするよ、あれ」




少し怪しいなと思いつつも…
反物屋さんに言われ、私はこくっと頷いた。

その時、その人が狡猾に笑ったのに気づかずに、私は無防備にもその人について行ったのだった。





しかし──……
この決断が、あとで間違いだったと気がつく。



『あの店には今後一人で行っちゃだめ』



そう家康に言われていたのに、約束を破って反物屋に行った私。
まさかそれが家康まで巻き込んで、あんなひと騒動になるなんて…

私はこの時、露ほども思っていなかったのだ。















*****















「美依…居ないのか」



その日、城の美依の部屋を訪れた俺は、主の居ない空っぽの部屋を見て小さく溜め息をついた。

あの市に行って以来。
俺はちょこちょこと美依の様子を見に来ている。

なんとなくだが、美依が俺の目を盗んで、あの反物屋に会いに行くのではないかと思ったからだ。



(あいつは…絶対美依を気に入ってる)



そーゆー感は、鋭く働くものだ。
特に、好きな子相手なら尚更。
しかも…どこか危険な香りもする。

絶対に、あいつに近づけてはならない。
俺の本能的な部分が、そう告げてる。

だから、美依の行動には目を光らせていたのだが、今日はどうやらすれ違ってしまったらしい。

それでも、どこに行ったかくらいは知りたいな。

そう思って部屋から出ると、廊下の先から秀吉さんが、こちらに向かってゆっくり歩いてくるのが見えた。







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