第18章 〖誕生記念〗焦がれし天色、愛しい君へ《前編》/ 徳川家康
────あんたが、だいすき
この一言を伝えるのに
どれほど勇気がいることだろう
俺は素直じゃないから
天邪鬼は筋金入りだから
いつも気持ちをはぐらかしていたんだ
でも、絶対に誰にも渡せない
もう、黙っているのが苦しい
あんたのためなら……
俺はなんだってしてあげるよ
だから、想いよ届け
あの子の心に突き刺され
もうすぐ俺の誕生日
また一歩、大人になるために
想いの言の葉を
一生懸命紡ぐから──……
(……美依、まだかな)
睦月も終わりに差し掛かる今日。
俺は御殿であの子を待ちながら、そわそわ浮つく心を持て余していた。
市に買い物があるから付き合ってほしいと…
そう言われて、柄にもなくわくわくと心踊っているのは、誰にも内緒である。
美依と二人きりの逢瀬なんて初めてだ。
いつも武将達に囲まれている彼女とは、二人きりになれる時間なんてそうそうない。
そう、恋仲とかならともかく…
美依に対しては、一方的な片想いなのだから。
────あの子の心が知りたい
そうは思っても、変に臆病な自分が居て。
なかなか前に一歩が踏み出せず、足踏みしているのが現実だ。
加えて、素直な態度を取れないから尚更。
もう少し…自分の気持ちを真っ直ぐに伝えられたらいいのに。
それは戦の敵なんかより、ずっと難敵で。
俺を最近悩ませている、悩みの種でもあるのだ。
(……あ、もうすぐ誕生日だな、俺の)
ふと目をやった暦を見て、小さくため息が出る。
誕生日となれば、また安土の武将達が城の広間で、それは盛大に宴を開いてくれることだろう。
それは嬉しくも少しだけ恥ずかしい。
ただ去年と違うのは、今年はあの子が居るということだ。
あの子は、どんなお祝いをしてくれるのだろう。
それだけでも、少し楽しみかもしれない。
また、一つ歳を取って…
それでまた大人になると言うか、人生に深みが出ると言うならば。
やっぱり、素直な自分になりたいな。
結局はそこに行き着く。
あの子を好きになって…
俺の中の問題は、何を考えていても根本はやっぱり同じなのだ。