第2章 〖誕生記念〗揺れる桔梗と初染秋桜《前編》/ 明智光秀
(九兵衛が嘘をつくとは思えないし、証拠もある)
静馬が売買を交わしたと言う、その証拠となる文もいくつか手に入れた。
美依には受け入れ難いかもしれないが……
こうなってくると、美依との関係も怪しくなってくる。
本当に美依が好きで付き合っているのか。
もしかしたら…どこかに売り飛ばすためではないのか?
何にせよ、こんな男の傍に居るのは危険だ。
俺は美依の肩を掴み、諭すようにゆっくり言葉を紡いだ。
「あの男はやめておけ、美依」
「……っっ」
「解りやすく説明してやったのだから、お前にも解るだろう?静馬は…危険だ、もしお前に何かあったらどうする」
すると、美依は首を横に振り。
涙を目にいっぱい溜めて、俺を不安に揺れる瞳で見た。
「そんなの、嘘です……!」
「美依……」
「静馬さんが、静馬さんがそんな事をするはずがない。光秀さん、また私に意地悪してるんでしょう?」
その瞳は、心底傷ついたと言う色を宿し…
普段怖いくらい澄んでいるのに、何故か濁って見えた。
信じる気持ちと、信じられない気持ち。
静馬を信じる気持ちと、俺が信じられない気持ち。
俺のことは、信じなくていい。
────静馬は信じるな、美依
「もう会うのはやめておけ、美依」
「嫌、今日だってこれから逢瀬をする約束をしてるんです。一緒に馬に乗って、近くの湖まで星を行くんだから!」
「美依、駄目だ。危険すぎる」
「光秀さん、酷いです!私の…私の好きな人を、悪く言わないで……!」
「……っ、美依っ………!!」
美依はすごい力で俺の腕を跳ね除け。
そのまま背を向け、走って行ってしまった。
あっという間に小さな後ろ姿は見えなくなり……
俺は思わず額に手を当て、前髪をくしゃりと握った。
『私の好きな人を悪く言わないで』
そう言った美依は、泣きそうだった。
傷ついたような目をして…涙が零れそうだった。
俺が美依を傷つけたのか?
だから、美依は泣くのか?
ならば…どうすればいい。
俺を信じない美依に、どうやって信じさせる?