第2章 〖誕生記念〗揺れる桔梗と初染秋桜《前編》/ 明智光秀
────運命とは、全くもって奇異なもので
俺にとってお前は、ただの『小娘』でしかなくて、
まぁ、からかえば可愛いな、とは思ってはいたが……
それはただの『愛玩動物』としての意味でしかなかった。
だが、いつしかお前は、
俺の心の大部分を占めるようになって。
笑った顔、怒った顔、困った顔。
その一つ一つに心揺らさせる自分がいた。
これは一体…どういった感情なのだろうな
美依、お前は一体何色に染まる?
純粋無垢で、真っ白なお前が、
その身を染める瞬間を、俺は見てみたい。
────願わくば、この俺の手で
俺がその感情の意味を理解するまで、
もう少し、お前を泳がせてやるとしよう。
ただし──……
一度踏み出したら、後戻りは出来ないと思え。
お前をこの手で、華開かせるまで
繋ぎ止めて、縛って、離したりはしないからな?
「じゃあ、秀吉さん行ってきます!」
「おお、気をつけてな。あんまり遅くなるなよ?」
(ん?あれは……)
昼過ぎ、御殿から安土城へ向かい。
その城門で見慣れた二つの姿を見かけ、俺は軽く瞬きを一つした。
美依と秀吉。
美依はなにやら綺麗にめかし込んだ様子で、秀吉に一回頭を下げ、ぱたぱたと外に走っていく。
さすれば当然、城へ向かう俺とすれ違うわけだが。
美依は俺の姿を確認すると、ニコッと笑い、特に立ち止まることもせず……
すれ違いざま、軽く頭を下げて走っていった。
そして、すれ違った時に解った事。
(随分、綺麗に化粧もしていたな……)
何となく気になって、美依の背中を見送っていると、城門から秀吉がゆっくり歩いてきた。
そして同じように美依の後ろ姿を見ながら……
兄の貫禄を匂わせた口ぶりで、俺に行った。
「美依、友達と遊びに行くんだと」
「友達と?」
「ああ、仕事を通じて仲良くなった子が居るらしい」
「……」
仕事を通じて仲良くなった友達と遊ぶ。
まぁ、別にそれは変な事ではないが……
それにしたって疑問が残る。
(女友達に会うだけで、あんなに綺麗に着飾るのか?)